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僕は今日も、鍵で扉を開ける。  作者: ささかま。
第3章 彼女は扉も鍵も知っているが、その先を知らない。
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79、子どもと子ども

お題:スポーツの悪意 必須要素:幼女 制限時間:1時間(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=225563)を加筆修正したものです。

 それは誓いの言葉にも似た、



 ※


 結局、――――、つまりあの変態くんは、言うだけ言って顔を真っ赤にして去ってしまった。



 とは、行かなかった。


 私の言葉を聞いても、もうその学生は動かなかった。今まで散々はぐらかしてふざけた返答をし続けてきたツケがもしかしたら回って来ているのかもしれない。

 私のようなアラサーの前で初めてを云々な発言をしてしまった未成年男子の心中は、いくら全知と言えども知り得ないので勝手に推し量るしかない。たぶんそういう世界をまだ知らない幼気な少年少女にそういう発言をするよりはいくらか救いがあるのかもしれないが。

 無論、推し量ったところでどうせ検討違いも甚だしいのだろうけれど。私はそうして、彼の荒い呼吸からそれを想像するしかないのだ。激しくスポーツをした後の呼吸にも似ているという、今の話の流れからだと少し悪意めいた考えも浮かび、それを口にしようとする。

 その直前、視界の端で桜の葉が落ちたのを無意識で目で追ってしまったのがいけなかったのかもしれない。


「何、よそ見してんだよ……」


 私は言葉を飲み込んだ。

 恐怖はなかった。未成年で細身の体型とは言え、自分より背が高い男に怒りと共に詰め寄られているというのに。


「いつまでもごまかしが通じると思うな」


 熱を帯びた声は、それでも一線が引かれているようで理性的だ。と、自然と分析してしまうのは腐っても教授職の性か。


「余計なことを考えるのももうやめてくれないか」


 ふと、彼のことを思う。あれから、この学生のことを少し調べたのだ。

 彼はずっと一人だった。この大学からそこまで離れていない孤児院で育ったらしい。だから、親はいない。そこの院長ともコンタクトを取ったが、魔法などとは無縁な一般人の温和な男で曰く、


 “――――くんは、他の子どもたちとあまり上手く付き合えていないようでした。でも真面目で良い子でしたよ”


 真面目で良い子。なんて無難な言葉だろうか。でも、私はこれが間違っているとは思わなかった。実際彼は真面目で良い子だ。出会って一ヶ月ほどだが、それくらいは分かるくらいの会話は交わしている。彼の純粋な正義感は正直少し疑問もあったが、今ではそれも理解できた気がする。いや、理解しがたいが、理解させられた。

 本当に純粋にこの男は災厄の魔女を倒したいのだ。まるで、本当に子どものようだけれど。それでも、子どもが大人に駄々を捏ねるのとはやはり違う。その正義感ゆえの。

 彼のような父も母もいないという状況を私は知らない。いや、知識としては知っている。知っていても、共感できるわけでも、その人の気持ちになることもできるわけではない。だから、こんな自分が嫌になるのだ。


「頼むから、僕と話をしてください、灰子さん」


 真っ直ぐな目が、どこか泣きそうな声が、真っ直ぐに射抜く。今度こそ、心がすくみ上る思いがしてやっと気づいた。私は、


「分かった。悪かった。ごめん。――――」


 私も彼のことは言えない。我ながら子どものような謝り方だ。

 この期に及んで私は心に起こったものを誤魔化そうと、左手を彼の頬に添えた。不義理かもしれない。でも、これで最後にしよう。


「きみと私で話をしよう」


 そしてようやく、本当にようやく、私は、――――に目を向けた。



 ※


 名前を呼ぶ。


 fin.

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