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僕は今日も、鍵で扉を開ける。  作者: ささかま。
第2章-b Re:僕は鍵を持っていて、使えば扉を開けられる。
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64、仮題と答え合わせ ー断章 その2ー

お題:男同士の外資系企業 制限時間:1時間(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=209763)を加筆修正したものです。

●参考:36、本題とたとえ話 ー断章 その1ー(http://ncode.syosetu.com/n1485bt/37/ )

 私は白も黒も知っていた。いずれも良くいずれも悪いことを知っていた。


 ※


 物語を進めるにはページを捲れば良いと思っている人間が多いけれど、私はあえてここでそれは違うと否定しておこう。何故なら、読者がページをいくら捲ろうが、どれくらいの速さで捲ろうが、既にその結末は決まっているからだ。物語を進めるには、読者ではなく筆者が、ページを捲るのでなくページを書き足していかなければならない。

 こうして明文化してみると、なるほどこれは当たり前のようでいて何かしら引っ掛かるところがあるのも事実なのだけれど、それは、まあ、さて置いておくとして。とりあえず私は物語を進めていこう。


 さて、話を進めると言っても今回は閑話休題あるいは補足的な話と言っても過言ではない。でも、とりあえず先日のたとえ話について少し思い出してみたいと思うのだ。

 たとえ話なんぞ覚えてないよ、という人は「本題とたとえ話」と題された話を思い出してほしい。あるいは一度、その話のページを捲りに戻っても良いかもしれない。

 とにもかくにも私が今回したいのは、その小説家3人が死んでしまった悲劇的な話で、さらにはそれを少し解説したいと思う。



 ※


 先日、どうしてあんなたとえ話をしたか、ということについて私は話をする義務を話し手として放棄していた。先日はそれについて話をする必要が全くなかったからだ。そして、今もってそれを話すべきかどうか、実は悩んでいる。こうしている間にも時間はなくなっていくのは重々承知してはいるけれど、そして私の時間はそう多くは残されていないことは知ってはいるけれど、それでも私は悩む。健全な人間の営みの一つである、悩み苦悩するということを、私はするのだ。

 しかし、どうして、の部分は悩むにしても、たとえ話の答え合わせくらいはしよう。そのために私はこうして語るのだから。


 きみはあのたとえ話を悲劇だと思っただろうか。悲劇だと思ったことだろう。人が三人も死んでいる。しかし、これがたとえば戦場での話だったらどうだろうか。たとえばオンラインRPGの話だったらどうだろうか。

 きみは「戦争で三人しか死ななかったなら被害が少ない方だろう」とか「RPGなら回復呪文があるだろう。回復薬があるだろう」とか思うかもしれない。同じ三人が死んでも場所や状況によって命の重さが変わってしまうのは、よくある話だ。まあ、それ自体がもしかしたら悲劇なのかもしれない。


 おっと、いけない。また話が逸れてしまった。回りくどい話は私も嫌いだけれど、やはり回りくどくならないように話をするのは案外難しいものだ。

 とりあえず今回の話は戦場でもRPGでもない、とある小説合宿の話であった。その三人の小説家たちが死んでしまった原因あるいは犯人は何であるか、誰であるか、という話だった。いや、彼らが何故死んでしまったかという話だったかもしれない。いずれにせよ、この話の真相を話すのが今回の私の役目である。

 念のため言っておくが、どこかから彼らを狙って怪しい外資系企業をやっている男性集団が押し寄せてきた、なんてことは一切ない。それは誓って、ない。彼らに後ろ暗いところなどなかった、とは言い切れないけれど、少なくとも所謂“ヤバイところ”から狙われるようなことは一切なかったと断言しておく。


 たとえ話はたとえ話内で完結している。私たちはこれを読んだだけで、彼らの人となりは知り得ない。男か女かという点だけで、それ以外は何一つ私たちには分からない。しかし、少し想像力を働かせれば、このたとえ話の謎解きはあっという間に終わってしまう。回りくどく解説する前に端的に答えを言ってしまおう。



 登場人物は四人いたのだ。



 ※


 ここまで言えば、あるいはここまで言わなくても察しの良い者は“ああ、なるほどそういうことね”と納得したかもしれない。そういう者にとってはこの先少し退屈かもしれないが、まあ、良かったらこの先も読み進めてほしい。読もうが読むまいが、結末は変わらないと分かってはいるけれど。


 登場人物の四人目は、仮にDとしよう。DはABCの合宿には参加していなかったものの、彼らが合宿をすることは知っていた。そして、彼女は彼らの宿のすぐ側に泊まり込みを開始した。そして、BCを殺した。Aは残念ながら殺せなかった。AはAで二人が死んでしまった事実で気が狂い、一人で勝手に死んでしまったからだ。このDという人間は最初から彼らを殺すつもりで動いていて、そして上手くいった。最後のAを除いて。

 彼女はAの死に様を詳しく“書く”ことができなかったのだ。


 犯人はDであり、D以外は誰もいなくなってしまった。

 つまるところ、“語る者”だけがそこに残されたとさ。めでたしめでたし。

 そんな物語だ。そんな筋書きだ。



 悲劇的な話はなかなかに受けが良いらしい。という話を、私は知り合いの小説家に聞いた。知り合いというか、自分の弟だけれど。

 私はその弟に一度尋ねたことがある。


「物語のために人を殺せる?」

「実際に人を殺めるって意味なら、それはありえないよ」


 即座に断言した後に、だけど、と弟は思案顔でその後に続けた。


「物語を作る上でたくさんの登場人物が捨て去られて書き直されているという現状を考えると、そういう意味では僕たちは大量殺人鬼みたいなものかもしれないけれどね」


 ※


 さて、私は物語を書きすすめよう。小説家でも何でもない、ただの魔女の端くれだけれど。自分の物語くらいは語り、書いていこう。そして、願わくばそれを彼が読んでくれるように残そうと思う。

 私は結末を知っていて、そこから逸れようとは思っていないけれど、せめて結末までの道筋くらいは脚色して、この感情のやり場としようじゃないか。このどうしようもなく悲しく、怒りに満ちたこの感情のやり場としようじゃないか。


 私は本と共に、海に抱かれながら彼を待つ。あの男はどのように物語を進めるのだろう。



 ※


 だからこそ、私は白にもなれず、黒にもなれない。

 ただの灰なのだ。



 fin.


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