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僕は今日も、鍵で扉を開ける。  作者: ささかま。
第2章-a 彼女は扉の先を垣間見るが、鍵は開けられない。
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48、中と外

お題:刹那のぬくもり 制限時間:1時間(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=200283)を加筆修正したものです。

 待ち合わせをするときは、



 ※



 学校に行く道すがら、私は周りの景色を見やる。冬も半ばに差し掛かる頃合いで、駅前の商店街にはクリスマスの電飾が飾られている。駅前広場にはそれなりに大きなクリスマスツリーが立てられているが、まだ飾り付けの最中といったところのようでビニールシートが被せられていた。

 クリスマスと言えば彼氏とデートと言ったような予定調和みたいなものがあるけれど、どうやら私の彼はよりにもよってクリスマス当日にバイトのシフトに入ってしまったらしい。そんなわけで今年のクリスマスは忘年会と合体してしまおうということになっている。


「で、タチバナちゃんよお。これからどうするんだ?」


 デートの話はさて置いて、私は黒猫と一緒にいた。昨日、おばあちゃんの家に帰宅した後、黒猫に名前を尋ねてみたのだけれど名前はないらしい。名前を付けてあげようかと提案したら、“オマエたち魔法使いみたいに名前に縛られるのはごめんだなあ”と断られてしまった。だから黒猫って呼んではいるけど何だか不便だ。


「そうだね……どうしようか……」


 私たちは途方に暮れていた。というのも、事情は昨日に遡る。



 ※


 昨日、おばあちゃんの家に帰った後、灰子さんから貸してもらった本を寝室で眺めていた。パラパラとページを捲り、片手に電子辞書を持ち、時折、傍らで蹲っている猫に力を借りて本を読み進めたのである。

 すると、とあるページに栞が挟まっていた。灰色のリボンが白い紙の栞に括りついている。ちなみに挟まっていたページは『ヘンゼルとグレーテル』の最初の部分だ。


「何か書いてある」

「ああ?」


 黒猫も首をこちらに伸ばして、栞を見やる。


「住所か?」

「うん。たぶん、海沿いの工場地帯の端の辺りだったと思う。昔造船所があったあたりかな」


 栞を裏返すと、さらに文字が書いてあってメールアドレスと適当な英数字の組み合わせが載っていた。


「haiko-3@ってなってるから絶対灰子さんのメアドだよね、これ。送ってみようか?」

「だな」


 と言いつつ、一応パソコンで捨てアドレスを作ってそこから送ることにした。件名を“タチバナです”として、本文に挨拶を入れて反応を伺う。

 送信してからそう待たずして、メールが来た。


「“魔法使いグレイコさんから招待メールが届いているよ!!キミもダークドラゴンを倒す正義の魔法使いとして聖なるクリスタルと契約しよう!!!”」


 メール削除処理をしている間に、次のメールが来た。先ほどの返信らしい。


「“タチバナちゃん、メールありがと!意外に気づくの早かったね。さっきはごめんね。明日時間あるよね?駅前のパスタ屋で12:00集合!今日の話の続きをしましょう”って書いてあるぜ?」


 顔文字がいっぱいあって読みづらかったが、要するにそういうことらしい。確かに明日は大学も休みだし時間はある。話もなるべく早めに聞いておきたい。このままだと私の一方的な話し損だ。

 了承する旨を返信すると、またすぐ返信が来た。


 “ところで、なんでゲームのアカウント作ってくれないの?招待した方もされた方も、S級アイテムの「巡る時の聖杯」が手に入るんだけどな~”


 私はメールを削除した。


 ※


「まったく、ばっくれやがってよお。だから魔女は嫌いなんだ」


 猫がぶつぶつと言いながら、私の足元で体を震わせていた。今日はここ最近で一番の寒さだから、無理もない。私も手袋にコート、耳あてと完全防寒対策で来たけれど、どうにも寒さはぬぐえない。手袋をした両手を更に擦り合わせる。とりあえず黒猫を抱きかかえるとその体温で少しは寒さが和らいだ。


「勝手に何してるんだ。オレは暖房器具じゃあないぜ?」

「でも、こうしていた方がお互い暖かいよ」


 黒猫はしばらくぶつぶつ言っていたが、結局私のコートに体を擦りつけていた。ちょっと毛がついてしまったけれど、この寒さの中ならお互い暖かくすることの方が重要である。

 腕時計を見るとすでに12:30を過ぎた頃だ。約束のパスタ屋さん前には12:00になる5分前くらいに到着したからかれこれ30分以上ここにいることになる。待っている間、時々パスタ屋さんの扉が開いて、中から美味しそうな香りが漏れてくる。合わせて中の暖房の空気も流れてくるから、その刹那だけ暖かさを感じる。


「あー!!!もうオレは待てない!!先に中で待たせてもらう」

「え、ちょっと待ってよ、黒猫くん!」

「散々待った。これ以上は待てるか」


 中からお客さんが出てくるタイミングを見計らって、黒猫がお店に入っていく。黒猫をそのままにしておけないので、私も慌てて後を追いかけた。



 ※


「いやあ、遅かったね!」


 私たちを出迎えたのはパスタの良い香りと暖房の温かさ、それに灰子さんのやたら朗らかな微笑みだった。黄緑縁のメガネをくいっと上げてこちらを面白そうに見ている。メガネの縁と同じ色の大きなクリップで長い髪がまとめられている。

 入り口で立ち止まってしまった黒猫をそっと見る。彼を【見る】までもなく、黒猫は体全体で怒りを表現していた。毛が逆立っている。他のお客さんがいる手前、怒りの声をあげられないのが可哀想なところだ。


「……すいません。遅れました」


 何を言っても、この全知の魔女の前では無意味な気がして、私はそう詫びた。というか、全知の魔女なら、きっと私たちが外にいることも知っていたに違いない。絶対、確信犯だ。

 テーブル側に来たウエイターさんにエビとタコのトマトソースパスタを注文する。ちなみに灰子さんの目の前には既にほとんど手を付けられたペスカトーレがある。


「ここ来たことあるんだ?」

「はい。彼氏と以前一回」


 それより、と私は姿勢を正して灰子さんに向き直る。


「あれ?なんか怒ってる?」

「怒ってますけど、今はそれより昨日の続きです」

「そう、分かった」


 灰子さんは、私の思いを知ってか知らずか笑みを浮かべて頷いた。


 ※


 しっかり計画性を持とう。


 fin.

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