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僕は今日も、鍵で扉を開ける。  作者: ささかま。
第1章 僕は鍵を持っていて、使えば扉を開けられる。
4/99

2、死と感情

お題:純粋な喪失 制限時間:30分(http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=186578)を加筆修正しました。

 私は開けてほしいと思った。それは生まれて初めての「  」だった。



 ※


 それは私が単純に亡くしたものだ。おそらく物心ついた時から純粋に喪失している物で、頭ではどこにもないと理解している物だ。

 周りは「お前は病気だ」と言う。私は笑顔を作っていつも「そうだね」と答える。


 私はそれを探すのを諦めていた。しかし、どんな鍵でも開けてくれる鍵屋、彼に電話をすると「開けられない鍵はない」と言う。




 もしかしたら、と私は淡い期待を抱く。

 


 「出せる分だけ出していただければ」

 

 依頼のお代に関して、鍵屋はそんな風に言う。私は思わず黙りこくった。

 もしかしたら彼が私を開ける時に私はそれを見つけることができるのではないのだろうか。



 「そう。ならお願いするわ」


 いくらでも出そう。


 私は「 」から開けてほしいと願った。そう、私は渇望していた。 



 ※


 対峙した男は抜身のナイフを持ってこちらに迫った。いや、「迫る」という言葉には語弊がある。男はまるで散歩でもしているかのような、どこかフラリとした足取りでこちらにやってきた。


 「貴方が鍵屋さん?」


 私は確信を持ちつつ、あえて尋ねた。案の定彼は

  

 「そうです。依頼で参りました」

 

 と淡泊に答える。




 「……理由は訊かないのね?」


 黙ったまま突っ立っている鍵屋に私は尋ねる。 


 「訊いても良いのでしょうか?」

 「……訊かなくて良いわ」

 


 私はブランコから立ち上がる。錆びかけている鎖が鳴る。理由を話してもどうせ理解されないのは分かっていたから。


 「では早速お願いするわ」


 私がそう言うと鍵屋はナイフを私に刺し向けた。


 

 ※



 ああ……痛いなあ……。




 私はそう

 

 悲嘆し


 憤怒し


 驚嘆し


 歓喜し


 そして


 狂喜した。



 ※



 それは私が単純に亡くしたものだ。純粋に喪失している物で、頭ではどこにもないと理解している物だ。

 周りは「お前は病気だ」と言う。私は笑顔を作っていつも「そうだね」と答える。




 ねえ、私は上手く笑えていたのかな?

 





 ※


 私は「心」から開けてほしいと願った。そう、私は渇望していた。 

 私は開けてほしいと思った。それは生まれて初めての「感情」だった。



 fin.

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