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第三夜 (その1)

 図書室を出た後にゲームセンターへ寄る時間があるはずもなかった。

 せいぜい、バスの中で軽くメールをチェックしただけ。運営会社からの返信はない。ゲームセンターの久住さんからの連絡もなかった。


 そうして家についた後のこと。

 早めに寝ようと思いつつも、図書室で見られなかったサイトだけ簡単に携帯でチェックした。

 ファンがこうじてアンチになったサイト、システムの不具合を利用した裏技のまとめサイト、アイテムを売買しているサイト……

 うさんくさい噂や、試すにはリスクが大きすぎたり、費用がかかりすぎる手段ばかりが書かれていた。

 俺と同じような不具合の報告は一つもない。

 しかし、いくつか興味を引く情報もあった。


 まずは、裏技サイトをながめる。

 知っていた情報ばかりでピンと来なかったが、ただ一つだけ、ゾンビをチームに加えることができるという情報が気にかかった。

 アンデッドオンラインは、複数のプレイヤーが仲間となった時、チームになったと設定することができる。チーム設定をすれば、一員のレベルが敵を倒して上がった時、他のチームメイトも同じようにレベルが上がる。それがプレイヤーの使うPCだけでなく、NPCのゾンビでもチーム設定できるというのだ。どうやら実際に試して、成功したらしい。

 もちろん、チーム設定における制限は、ゾンビをチームに入れた時も変わらないという。一定距離内にチームメイトが存在しなければならないし、共有できるのはレベル上げだけ。ゾンビは人工知能で勝手に動くだけだから、チームメイトも気にせず攻撃してくるし、作戦を教えることもできない。あくまでチームという立場を利用して、特定のゾンビの行動範囲を制限できる程度だという。

 ともかく、ゾンビをPCと同じように扱える設定が残っているということは、俺のようにプレイヤーがゾンビを扱う方法論も、どこかに抜け道として存在するということなのかもしれない。

 もちろん、前々回にゲームを終了した時も、いつもと同じようにセーブポイントの穴へ飛び込んだだけ。何も変わった行動はしていない。裏技があるとしても、俺自身の行動とは別に発動のきっかけがあるのではないか。そうだとすれば、真実を探るのはいっそう難しくなるはずだ。


 次に、アンチサイトをのぞいてみた。

 こちらは運営会社ではなくプレイヤーを批判する意見が印象に残った。


 アンデッドオンラインはゾンビだけでなく、プレイヤーが操作するPCを倒してもレベルを上げることができる。いわゆるPKプレイヤーキラーだ。

 単純な動きしかしないゾンビより、ちゃんと考えている敵と戦うことに楽しみを見いだす、そういう勝負師らしいPKもいる。

 しかしゾンビと違って複雑な思考をするプレイヤーは、逆にいうと間違った情報を与えて騙すこともできる。うまくすれば、ゾンビを倒すよりも効率的にレベルを上げられるわけだ。


 もちろん、貴重なアイテムを奪って売買することも、多くのPKの目的だ。

 現実の金を動かして儲けるRMTリアルマネートレードを効率的に行おうとする集団は、インターネットを使って人件費の安い国からPK専門のプレイヤーを雇い、ひたすらアイテム強奪やレベル上げを続けさせる。

 PKはゲームの緊迫感を高めるという効果もあるが、RMT目的で作業をしているようなプレイヤーは楽しもうという気持ちがなく、ただゲームの障害でしかない。仮想現実を作り出すランポシステムを通さず、携帯やパソコンを通してPCを人形のように操ったりするPKもいる。ひどい時には、レベルの低いゾンビを倒したり、落ちているアイテムを探索したりする単純作業は、人工知能にまかせている場合もある。

 そうしたRMT目的らしきPCが増えているという。


 他にも、多数のアイテムを購入することで強化しているプレイヤー集団が多くなったという。


「お金を使えない学生プレイヤーが相対的に弱くなり、ゲームの新規参入者が減ってくるのではないか」


 そう懸念する声が掲示板で書かれていた。

 ただし、アンチサイトの参加者は古参が多いようなので、もともと新規参入者を歓迎していなくて、この懸念については賛否両論といったところ。

 

 そして、アンチサイトの情報で最も印象に残ったのは、圧倒的に強く、勢力を広げているチームがいるという話。

 そのチームは、よりによって俺と近い地域で活動しているリベルタのことだった。

 チーム活動には興味が薄いのでよく知らなかったが、半年前くらいから頭角をあらわして、各地区のチームを吸収しながら巨大化しつつあるという。

 もちろんゲームにおいて規約違反でもマナー違反でもないが、その規模と強さはゲームのバランスを崩しかねないほどだという。


「最近に不具合が目立っているのは、PCの数が増えすぎているから。適度にPCが死ぬことで成り立っていたゲームで、PCの生存率を高めすぎる勢力は排除されるべし、か……」


 あるいは、このリベルタがゲームシステムに負担がかかるような裏技を使っているのかもしれない。そうでもなければ、主戦場から離れた地区において、わずか半年で有力チームにのしあがれるわけがない。

 規約に反してアイテムを売買しているサイトでも、リベルタという新興チームの名前が話題になっていた。チームの規模を利用してアイテムを無料で貸し借りし、ゾンビとの最前線にだけアイテムを集中させているという。規約違反の個人売買はもちろん、制式アイテムすら購入せず、売買サイトは商売あがったりのようだ。


「そもそも一員のレベルが上がっただけで無制限な人数のチームメイトもレベル上げされるのは、アンデッドオンラインのルールが持っている根本的な欠陥ではないか……か」


 過激な口調が多いアンチサイトで、最も穏やかな口調で説得力を感じた批判。その対象が、規約にもマナーにも違反していない相手ということが、皮肉に感じられた。


 また別の、とあるサイトに、様々なPCの特徴や画像が集められている。

 その情熱は恐ろく、ややストーカーじみていたが、別に文句をつけるつもりはない。オンライン対戦できるゲームで有名になるとは、そういうことだ。

 火曜日に戦ったチーム、IGPイモータル・グループの画像を眺める。ツナギを着たアフロ男や、ドイツ軍風の制服を着た若者。そして制服やゴスロリの少女達……すっかり忘れていたが、アンデッドオンラインには俺と同じ状況になったらしいプレイヤーが、少なくとも一人いる。ゾンビになったゴスロリ少女だ。

 だが、IGPは新興のグループであって注目をあびておらず、どうやら情報は数週間前の内容らしい。当然、ゴスロリ少女の現状もしるされてはいない。せめてチームが集まっている場所か、拠点にしているサイトがわかれば、連絡のとりようもあったのだが。


 そうして画像を一つ一つ見ていき、ついにリベルタの情報を探しあてた瞬間、寝ころがっていた俺は思わず跳ね起きた。

 いくつかのリベルタメンバーを見ていっても特に引っかかることはなかった。しかし、最下段に置かれたリベルタのリーダー、ジャンヌ=リコールという名前のPCだけは見覚えがあったのだ。それもゲーム内ではなく、現実の世界で。


 その画像はゲーム内の光景を、イメージ的な静止画として出力したものだった。おそらく各プレイヤーの許可は取っていない。PCの基本設定は、使用している各プレイヤーの暗証番号を使わないと見られない仕組みになっている。特にリーダーは他のメンバーに守られているらしく、遠くから映した後姿しか画像が存在しない。

 しかし、その背丈から見て、俺よりわずかに低いだろうことはわかる。細いながら、出ているところは出ている体型。そして、背中まで流れる美しい金髪、左右に小さなオサゲをたらしている個性的な髪型。

 俺の前まで来てから注意して去っていった後姿の記憶に、周囲に配下を並べて白いマントをひるがえしている女王の姿が、ぴったり脳内で重なった。


 ……どう見ても、これは委員長の後姿だ。

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