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箱の中で

「ううう」


 教室の、自分の机に突っ伏しながら、唸り声を上げる。

 もちろん、他の人に聞こえないぐらいに。

 いちおう、TPOはわきまえているつもりだ。


 あれから、どうしてか屋上に行きたいという気が全くしなくなっていた。

 友だちと一緒にだべって、ご飯を食べて、遊びに行く。

 そんな普通の日々を、私は求めていた。

 そう、彼との出会いは特異で、奇妙なことなんだ。

 だから、これ以上は求めてはいけない。

 もし求めてしまったら、私は……どうなるのだろうか。


「ねえねえ、荒井さん」

「何かな? 古井さん」


 彼女は、苗字に「井」がつくのがお揃いで嬉しいという理由で、私の友だちになった不思議で可愛い女の子だ。

 ポニーテールにしている艶のある髪の毛を持っていて、活発的。

 羨ましいことこの上ない子である。


「私、彼氏と別れちゃったよー!」


 抱きつかれ、胸に顔を埋められる。

 いや、それ、私に言われても……。

 私、しばらく彼氏いなかったから、いいアドバイスできないだろうし。

 しかし、こんなこと言おうものなら、彼女は爆泣きすること間違いなしだ。

 だから、頭を撫でて、「お疲れ様」という言葉を伝える。


「ううう。ありがとう!」


 さっきよりも強い力で抱きしめられ、骨がぎゅうぎゅう絞られる。

 可愛いけれど、陸上の強化選手の力には、根を上げそうだ。


「古井さん……いたい」


 「ふぎゃー!」と奇声を発しながら、離れてくれた彼女に、ふうと息を吐く。

 悪い子ではないから、ね。

 また、頭を撫でてあげた。


「ありがとう、荒井さん」


 にこりと笑う顔が印象的で、何故か胸に残る。

 どこか違和感を感じながら、首を傾げると、それは視線だったということに気づく。


「橋本君!?」


 抱き合っていた私たちを、彼はドアの影から覗き込んでいた。

 え、何でそんなところに現れるの!?

 驚いて固まっていた私に、彼は近づいてきた。


「なんか、羨ましいことされてるな。古井」

「でしょー!!」


 いや、そこ。

 なんか波長が合うのか分からないけれど、仲良くない?

 っていうか、もう何から突っ込んでいいのか分からないし。

 困った目で見ていたら、古井さんが笑顔で私に教えてくれた。


「幼稚園の頃に仲が良かったの」

「え、幼稚園の頃!? ピンポイントなの!? い、今は……?」


 幼稚園の頃からずっと仲が良かった、とかだったら分かるけど。

 何故か突き放した言い方をする古井さんに、地雷かもしれないと思いつつ、問いかけた。

 すると、彼女はあっけらかんとして、こんなことを言う。


「小学校のときに、私のだいっじな友人を振ってくれてね。それで仲が悪くなったの」


 うわっ。なんかドロドロした話を聞いてしまった……。


「いや、ちょっと待て。あれは振って当たり前だろ。佐玖耶は男だし!」

「それでも、さくちゃんは傷ついたもん。許せないー!」

「え、なんで佐玖耶君とやらは、橋本君に告白したの!?」

「だって、はっしーは女の子っぽかったし」

「うるさい。だいたい、よく知りもしない相手、しかも男に告白された俺の気持ちを考えてみろ!」

「だって、一目惚れなんだから、しょうがないじゃん!」

「佐玖耶だって、別にもう気にして無いし、普通に友だちだろうが!」

「むう」


 確かに、それは衝撃的だろう。

 よく分からないけれど、とにかく可愛い顔をした橋本君(当時、小学生)は佐玖耶君に一目惚れをされて、告白されたんだろう。

 それで、佐玖耶君に男だと告げて、友だちとして仲良くなった。

 それを古井さんは許せていない、と。


 不思議な人たちだなあ。

 と、そんな渦中に居ながら、私は思った。

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