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空を見上げて風を感じる

 今日も私は彼に会いに屋上に来た。

 そこで疑問に思う。


「ねえ、橋本君はなんで屋上に来るの?」

「それこそ、俺に質問するのはおかしいんじゃねえの?」


 確かに、そう思う。

 私がここに通い始めたのは、あの出会いから。

 彼のことが好きなわけじゃないし、かといって屋上に興味があるわけでも無い。

 ここは、居心地は悪く無いけれど、長居をするには面倒な場所だ。

 橋本君に告白する女の子たちに、ここに通っていることを気づかれたら、非常に面倒。

 じゃあ、何故ここに通うのか。

 やっぱり、分からなかった。


「好きなんだ、空が」


 返事が返ってきたことに驚いた。

 空を見上げて、その青さを瞳に閉じ込めている彼は静かで、やはり綺麗だった。

 うん。これだったら、普通に惚れてしまうだろう。

 女の子たちの気持ちがわかって、複雑な心境になる。

 これ以上、見ているのが恐くなって、私も彼と同じように、寝転がる。


「パンツ見えるぞ」

「でも、橋本君は、見る気ないでしょ?」


 この人が、私に対してそういう興味を持つとは思えない。


「まあ、ないな」

「じゃあ、いいんじゃないの?」


 本当はあんまり良く無いけれど、深く考えるのは嫌だ。

 こんなにここは気持ちが良い場所なんだ。

 それを害するのは、彼も私も望まない。


「荒井は、空は好きか?」

「ふうん、珍しい。そんな質問投げかける人だなんて思わなかったな」

「茶化さないで、答えろよ」


 むっとしたような声がして、くすりと笑う。

 なんだ。案外、子どもっぽいところのある人なんじゃないか。


「私も、好きだよ。でも、雨は嫌い」

「なんで?」

「だって、寂しい気持ちになるじゃない? それに濡れると寒いし、外に出る気がしなくなる」


 そんな答えに笑って返される。


「世間一般の人だって、そう思ってるはずだもの」

「まあ、そうかもな」


 彼は、どうなのだろうか。

 それからは、お互いに静かにただ風を感じていた。

 ぽかぽか陽気のお日様が、とても温かくて、心地よい。

 どれくらいそうしていたのか。


 隣から、声が聞こえてきて、その時間は終わった。


「そろそろ、起き上がれよ」

「なんで?」

「俺が起き上がりたいからだ」


 俺様な発言に、今度はこちらがむっとする。

 なんだそれは。

 この場所はお前だけのものじゃないんだぞ!

 そう言ってやろうと思い、起き上がって彼のほうを見ると。


「顔が赤いのは、何故?」

「別に」

「……もしかして、起き上がれって言ったのは」

「もういいからっ。黙れ!」


 どうやら、彼は結構紳士らしい。

 このまま、彼が起き上がったら、確かに私のパンツが見えてしまっていたのかもしれない。

 それで起き上がれといったのだろう。

 まあ、こちらを見なければ良いだけの事だけど。

 だけど、ちょっと嬉しい。


「起き上がりましたよ」

「ああ、そうですか」


 やっぱりどこか照れながら、彼は立ち上がり、そのまま入り口へと向かって行った。

 一度、こちらを振り返り、手を上げる。

 気障な奴だな。

 そんな失礼なことを考えながら、彼を見送る。


 何も知らない。

 でも、ここに居る。

 それがどんな意味をもたらすのかなんて、知らなかった。

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