階段の先に
嘆かわしいとは思わないか。
俺みたいな男につきまとうなんて時間の無駄だろ。なのに、そんな馬鹿な女は増えていくばかりである。
誰か簡潔に教えてくれと切に願わずにはいられない自分だった。
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――またアイツは女の子を振ったらしい。
大声で泣きながら階段をかけ降りる同い年の子を横目に見ながら、私はその階段の上を目指す。窓から差し込む陰りを得た太陽が、私をオレンジ色に染めあげるのが酷くわびしい。
「屋上、か」
返事が帰ってくることがないのは今が私独りだけだから。
――なんで、屋上に向かっているのだろう?
毎回思うのだが、結局、自分でも答えを出すことが出来ないままだ。
出来ないというより、出したくないのかもしれないけれど。
今向かっている屋上には、アイツがいる。
アイツは告白してきた娘に対して、決して「ごめん」とも「嬉しいんだけど」とも言いはしないような、最低なやつだ。アイツが告白してきた子には与えるのは、ただ邪魔だとでもいうような目だけ。
いくら話をのばそうとしても彼の前では無駄の一言で片づけられてしまう。
泣いている娘を見た後すぐにため息を吐き、「此処は自分の場所だから」と言って無理矢理屋上から引きずり出す。
――きっと、私はそれが許せなかいんだ。
彼に会って、明確な答えを出したかった。
すごくもやもやしている自分を解放してほしかった。
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階段を上りきると古くさい扉を開け放った。
すぐにアイツを見つける。
アイツは夕日で顔を染め、目を閉じて何事か考えているようだった。
その様ははっきり言って綺麗だった。いや、綺麗と言うよりは艶っぽいと言う方が近いかもしれない。整っているのは、顔だけではない。全身が精錬され、そこに存在するだけで周りと違うと感じさせる何かが、彼には存在した。
これくらい綺麗だったら、女の子たちはころりと騙されてしまうのも頷ける。とはいえ、アイツには騙している気すら無いのだろうけど。
近づいていくと、アイツはこちらを見もせずに、馬鹿げたことを言った。
「また告白か?」
「いつ私が貴方のことを好きだって言ったのかな」
この言葉を聞いて相手がぎょっとしたのが見てとれた。
「私、貴方みたいな人好きになれない」
彼はいきなりこんなことを言い始めた自分をどう思うだろう。
頭のおかしなやつ、と思われても仕方ないことを言っている自覚はあった。
ちらと彼の顔を盗み見る。
なんと彼は笑っていた。
「ぷっ。普通、そんなこと初対面の相手に言うか?」
なんだか拍子抜けした。
もっと何か言われると思っていた。
「まあ、そうかも。私も、いきなり馬鹿なことしてるって思うよ」
「しかも、素直だし」
聞いていた話と、微妙に違うな。
そんなことを頭の片隅で考える。
「変な人」
「それは俺の台詞だろ。ふっ、気に入った。なあ、名前聞いてもいいか?」
前言撤回。
やっぱり軟派な人だ。
でも、嫌な印象は受けなかったので、教えてあげた。
「荒井万理」
嬉しそうに笑うアイツは、私の中で橋本賢治になった。