プロローグ
「好きです」
涼しい夏の日のこと。もう生徒たちは部活やら帰宅やらで、教室にはほとんどいないような時間帯である放課後。そんな時間に、屋上に二人の生徒がいた。
一人はとても緊張し、手が汗ばんでしまっている。だが、もう一人の人間は、彼女のその様子を意に介さないようで、めんどくさそうにしている。
そんな中、告白が行われた。
「あのさあ、お前、何か勘違いしているみたいだけど。俺、お前のこと女だって思ったこと無いから」
彼女は、自分の指先が冷えていくのを感じた。
そして、全身が震え、しゃれにならないほどの悲しみが彼女を襲った。
自分にだけは優しいと思っていた彼の、そんな態度がひどく痛い。
「部活行くからじゃあな」
彼女は、「待って」と言う声さえも出ずにいる。
声は彼には届くことは無かく、彼女の胸のうちに秘められたまま。
発することなどできなかった。
そんな事があってから、一人の少女は恋愛と言うものに興味を失った。
あんな酷い返事をもらったのだ。仕方の無いことなのかもしれない。
「もう忘れてしまいたい」
――それでも、やはり好きだったのだ。
だから、この胸の奥の方でいつまでも自分を痛めつけるのだ。
それから、数年のときが経ち、彼女は今、一つのもやもやを抱えてしまっている。
それは一人の男に対してだった。