コロッケ
7、コロッケ
昔、キライだったけど、今は大好物になった食べ物がボクにはたくさんある。
ボクは昔は偏食児童で、好き嫌いを言ってはおかんに怒鳴られ続けていたのだ。うちのおかんはボクがキライなものに手をつけないと、食事を終わらせてくれない。
だから必死になって食べるのだが、キライなものを食べるには当時はすごく勇気が必要だった。
とにかく口に入れた瞬間、苦手な味が口に広がるのは、本当に拷問以外の何者でもない。
と言ってもそれは子供の頃のボクの個人的な意見であり、そんな子供のわがままなどは聞き入れられないのが現実である。
話はそれるが、食事をする際に、定食屋に行けば注文に困るぐらい好き嫌いの多い人がたまにいる。
一番、多いのが野菜嫌いで、つけあわせのネギをどけて食べたり、定食の野菜煮込みだけ残したりする人をたまに見かけたりする。
これは個人的な意見だが、そういう人は何かしら人間的に問題のある人である場合が少なくない。
というのは、大人になるまでキライなものを食べずに生きてこれたからこそ、そういうことができるのである。
つまり、それだけ好き勝手にしてもいいと親に育てられた証拠であり、そういう人は自分のことしか考えない傾向にある。
まあ・・・。
そうではない人もいるかもしれないので絶対とは言わないが、ボクが今まで付き合ってきた人間で、上記のようなことをする人間には、何度か裏切られたり、酷い目にあわされたりしているので、あながちボクのこの持論も間違ってはいないとは思う。
ちなみにだが・・・。
ボクは子供の頃、偏食児童だったが、つけあわせのネギをどけたり、野菜の煮物を残したりしたら、死ぬほど怒られたものだ。しかし、これはあるべき教育の形だと思う。
というのは、世の中には食べたくても食べられない人がたくさんいるのだ。それに食事はまんべんなくなんでも食べないと身体にもよくない。こういったことを全力で教えるのは他でもない両親の仕事だからだ。
さて、話を元に戻そう。
昔キライだったもので、今、好きになった食べ物、それはコロッケである。
ボクは昔、コロッケがキライだった。
なぜキライかというと中に入っている玉ねぎの匂いが苦手だったからだ。
小学生の頃は夕食にコロッケが出ると『おえ』っとなりながらも食べていたものだ。
キライだった子供の頃は、どのコロッケでもキライでコロッケと言われたら嫌な顔をしていた。とにかく玉ねぎの匂いがキライなのだ。
ちなみに玉ねぎの匂いは今でもそんなに得意ではなかったりする。
話すと長くなるのだが、玉ねぎのサクサクした触感と、あの独特な匂いがするような調理方法がキライなのだ。
基本的には玉ねぎでもカレーライスに入っている玉ねぎは好きである。煮込んでしまえばあの独特の匂いもサクサクした食感もなくなるからである。
生の玉ねぎでも最近は冷たい水にさらした薄切りのさらし玉ねぎは大好きである。
この玉ねぎなら匂いは強くないし、さくさくとした食感も火を通した時のものより美味しい・・・と思う。こうやって書いていると、なんだかめんどくさい奴だなあ・・・と言われそうだが、自分自身でもこういう食材のあり方に関してはめんどくさい奴だなあ・・・と思う。
玉ねぎの匂いがキライでコロッケが食べられなかったボクだが、ある日、学校の先生が給食をなかなか食べることができないボクに言ったのだ。
『阪上くん。コロッケってお芋とお肉しか入ってないのよ。』
えーーと・・・。
これはおそらく先生が知らなかったのかウソをついていたかどちらかだと思う。コロッケには確か炒めた玉ねぎが入っているはずだ。
これは余談になるが、ボクがコロッケを作るときは玉ねぎをあめ色になるまで炒める。その後ひき肉を入れて砂糖、塩、胡椒で味付けする。こうすればボクのキライな玉ねぎのあの独特なにおいがしないのだ。しかも玉ねぎの旨みはしっかりと出てくるから美味しいコロッケが出来上がるのだ。
とにかく先生のこの言葉のおかげでボクはコロッケが大好きになったのだ。
だまされたと思って思い切って一口食べてみたときの衝撃は忘れられない。
『あれ??ボクなんで食べられなかったんだ??これ・・・。』
という感じだったのを覚えている。
この出来事は小学校低学年の頃の話である。
こういうことを経験したものの、ボクはコロッケが大好きにはならなかった。ただ以前のように食べれなくて困る、ということはなく、出されれば食べる、ということはできるようになったのだ。
では、いつコロッケが好きになったのか・・・。
明確には覚えてない。
ただ、食べられるようになってからは比較的自然と『美味しい』と感じるようになった。
好き嫌いというものは、克服できるものである。
冒頭でも書いたが偏食はアレルギーではないので、当人の甘えの何者でもない。
いい大人があれもこれも嫌いだから食べる事ができない、というのは恥ずかしいことなのである。
コロッケが好きになったボクだが、実はコロッケの中でも特に好きなコロッケがある。
もちろん昔ながらの芋のきいたコロッケも大好きなのだが、なんといっても一番好きなのはカニクリームコロッケである。
カニクリームコロッケを最初に食べた時のあの衝撃はすごかった。
普通のコロッケは外側の衣がサクサクして中の下味のついた具がホクホクしつつも衣のサクサク感と実によくあっており、ウスターソースなどをかけて食べるとこれまた美味しい。
どんな味かと言われるとうまく説明できないのだが、とにかくあの味は庶民の味であり、肉屋の店先で立ちながらパクつくことをイメージできるそんな食べ物である言えよう。
ところが、カニクリームコロッケは違う。
まず味はクリーミーで、カニの味がしっかり生きているので上品かつボリュームもしっかりある。
一口食べると、中のクリームがとろりと口の中に広がる。
同じコロッケでもこちらは上品な洋食レストランでナイフとフォークを使って食べたいコロッケなのである。
いずれのコロッケも美味しい。
ボクはなぜこんなに美味しいものがキライだったのか思い出すことができないでいる。