大根が嫌いな人はおでんを語る資格はない。
少し寒くなってきた。
9月までは熱中症を心配しなくてはいけないほどだったにもかかわらず、10月に入って数日したら気温も落ち着きだしていい感じで涼しいなあ……なんて思っていたら寒くなるのは時間の問題だった。
寒い……
そういったが丸っこい体型をしているボクは未だに家では半そでを着ている。
寒いと言ってもそこまでではない。
デブは寒さには強いのだ。
暑いのはしんどいけど。
気温が下がってきて、少し肌寒いかなと思うようになると食べたいものも夏の暑い時期とは変わってくる。
暖かいものが恋しい。
『おでんが食べたい』
こんなことを言いだしたのは小学3年生の息子である。
ボクと同じく丸っこい体型の彼は案外グルメであり、季節感のある食事を好む。
たぶん……その体型と同じく父親に似たのだろう。
確かに少し涼しくなるとおでんが食べたくなる。
以前にこんなことがあった。
『おでんって美味しいよねえ』
『そうね』
『伽耶ちゃんはおでんの具で一番好きなのは何?』
おでんの具で一番美味しいもの……
この話題だが、何気に盛り上がる。
丼の種類の中で一番美味しいものは何か……という話題がかなり盛り上がるのと同じく、どのおでんの具が一番美味しいかというところも、人によってかなり変わるからだ。
伽耶ちゃんというのは、ボクが結婚する前に付き合っていた彼女。
実は、彼女。
ひどく好き嫌いが多い。
特に野菜が食べられない。
今、思い出すとこんなにもボクと相性の悪い女性はいないなと思うぐらいに相性が悪いのだ。
『餅巾着かな』
『え?』
『何かおかしなこと言った?』
『いやいやいや……おでんで一番美味しいのは大根でしょ』
『大根? 一番嫌いなんだけど』
『は? 意味わからん。1位じゃないのは人それぞれだから許容できるけど、一番嫌いはないでしょ』
『一番嫌いだよ。だってあたし大根そのものが嫌いだし』
伽耶ちゃんはおでんを食べても大根は口にすることはできない。
なぜなら……野菜が嫌いだから。
アレルギーで食べられないということではない。
単に嫌いなだけ。
思い出しても腹立たしい。
てゆうかこうやって書いてて思うのが……
この女性となんで付き合っていたのだろう。
ボクは伽耶ちゃんに言った。
『大根が嫌いな人はおでんを語る資格ないからね』
ボクはボクの持論を人に押し付ける気はまったくない。
ただ大事なことなのでこれだけは言わせてほしい。
大根が嫌いなやつにおでんを語る資格はない!!
おでんの美味さとは何か……
そこを掘り下げて考えた時。
練り物やすじ肉などが入っただし汁の旨味を吸ってくれている大根の美味しさではないかとボクは思う。
あくまで個人の感想なので異論は認めるところなのだけど、それでもおでんの具の中でもメインと言ってもいい大根が嫌いというのはいかがなものかと思う。
ちなみにだがボクは息子に同じ質問をした。
『おでんの具の中で一番好きなのは何?』
『大根!!』
父親に気を使っていったのではなく……
そもそも彼は父親にはまったく気を使わないのだが……
それにしてもおでんの大根の美味しさが分かるとは……
息子は小学生にしておでんを語る資格をすでに兼ね備えているのである。