麦茶とビールの不思議な関係
美味しいなあ……。
水筒に入れてある麦茶を飲むたびにそう思うようになった。
昔は可もなく不可もなくという感じだったのに、ここ数年でボクの中で麦茶の株が急上昇している。
思えば昔から麦茶を飲んでいた。
夏休みの思い出といえば、暑い最中に飲んだ麦茶だった。
冷蔵庫に入っている冷えた麦茶をコップに入れてガブガブと飲んで、補充もしないものだから親に怒られる。
そんな思い出。
特別でも何でもない日常の一コマだから、普段はすっかり忘れている。
でも麦茶を飲むと思いだす。
振り返ると子供の頃は今ほど麦茶が美味しく感じていなかった。
できればコーラとかサイダーの方が良かった。
甘くて冷たくてシュワシュワしている炭酸飲料は滅多に飲ませてもらえなかったから、そちらの方がありがたかった。
高校生ぐらいまでは同じ嗜好だった。
高校を卒業し、20歳を過ぎてお酒を呑むようになってからボクの嗜好は少しずつ変わってきたような気がする。
なんといっても子供の時に比べて甘いものをあまり口にしなくなった。まったく口にしないということはないのだけど、甘いものより、少し塩味のあるものを好んで食べていた。
ビールを飲むようになったからかな?
そんなふうに考えてみたのだけど、なんとなく違うような気がする。
大人になってから飲んだビールはさほど美味しいとは思わなかった。
20代の前半ごろはちょっとイキってビールを飲んでいたのだけど、本音を言えば、苦くてあんまり美味しくなかった。
ビールが美味しいと思えるようになったのは成人してから数年後の話。
相変わらず20代の前半は子供の頃と同じようなものばかり好んで飲んでいたから、嗜好が変わったのはもう少し後なのだ。
いつしか外で飲む飲み物がサイダーやコーラからお茶に変わっていったのは、20代の後半ぐらいだ。
その頃に何かあったのだろうか。
いくら考えてもよく分からない。
なぜかと言えば……
子供の頃に好んで飲んでいたサイダーなどの炭酸飲料を、今になって全く飲まないということはないのだ。
たまに飲みたくなることがあるのだ。
そしてそういう時は迷うことなく購入する。
だから嗜好が変わったというよりは、自分のお金で好きなものが飲めるから、『いつでも飲める』という安心感でそれらのものを選ばなくなったのかもしれない。
実は、今、麦茶を愛飲しているには理由がある。
それは折からの物価高で我が家もそれなりに節約しなければならないからだ。
ただ安価だから仕方なく飲んでいるというよりは、これが美味しいから飲んでいるという感覚になっている。
やっぱり麦茶は美味しい。
口に含んだ時の麦の香りと清涼感が実にいい。
さらにホットにしても美味しい。
でもサイダーやコーラのようにはっきり甘いわけでもないし、刺激的な味でもない。
なるほど。
こう書いてみるとなんとなく見えてくるものがある。
というのも……
麦茶は美味しすぎないのだ。
だから毎日飲んでも飽きない。
水筒から飲むと毎回『美味しい』と感じるのだ。
美味しすぎる料理は食べ飽きてしまう。
毎日食べるものは、地味な味で、美味しすぎてはいけない……とどこかで読んだことがあるが、それはこの麦茶にも言えているのかもしれない。