美味しいって難しい
『ああ……美味しいなあ』
食いしん坊なボクはそうつぶやくことが多い。
『阪上さんの奥さんって幸せですよね』
以前に働いていた通所介護でスタッフの若い女性からそんなことを言われた記憶がある。
当時は独身だったので、奥さんと言われてもピンと来なかったのだけど、要はどんなものでも『美味しい』と言うという意味だったらしい。
実はこれには大きなからくりがある。
かみさんが言うには……
『美味しいとは言ってくれるけど自分の苦手なものは一口しか食べないよね』
『そう?』
『そうだよ。まあ、不味いとか言われるよりは全然いいけどね』
『いや、それは申し訳ないなあ』
こんなボクにも苦手なものがある。
それは火が通っていて食感がサクサクしている玉ねぎ。
何かあの食感が苦手でさらには少し独特の匂いがするのが受け付けないのである。
これはあくまでボクの好みの話なので不味いわけではない。
そもそもかみさんに限らず……自分以外の人が作ってくれている料理を『不味い』なんて言うのはどうかとボクは思うのだ。
作ってもらっといて『不味い』とか言うのは失礼だ。
だからボクは自分が作ったもの以外の料理を『不味い』とは言わない。
不味いとは言わないけど、一口食べてから手を付けない。
だから、料理をしているかみさんからすれば『ああ、今日のは好みじゃなかったんだ』と分かるらしい。
『でもそういうことって少ないよね?』
ボクが気にしてかみさんに聞いたところ『そんなにない』とのこと。
目の前の料理を残してしまうことが好きではないボクは基本的にはなんでも残さずに食べるようにしている。だから無意識とは言え、これにはびっくりした。
なるべくならそういうことはないようにしなければならないとは思っている。
やはり作ってもらっているなら感謝して食べたいからだからだ。
ただ……
この『美味しい』という価値観は実はすごく難しい。
何を美味しいかと感じるのはそれぞれなのだけど、高級なものだけが美味しいかといえばそうでもない。100円ちょっとで買えるようなジャンクフードでも『美味しい』と感じることだってあるのだ。
最近、何が『美味しい』のかという問題は実に奥が深い話だと気づいた。
素材にこだわり、高級な食材ばかりを贅沢に使い、一流の料理人が作る料理は当然なことだが美味しい。多分、食事の際は『美味しい』という感覚以外にも、それに付随する感覚も大事になってくる。
高級な料理の場合は、それなりの『高級感』が必要になる。
それなりの高級感はその料理のありがたみを増してくれるから美味しい。
逆にそこらへんのコンビニでも買えちゃうジャンクフード。
なぜか中毒性が高い。
塩分が高いからかとも思ったけど、たぶんそれだけじゃない。
そしてこれらも美味しい。
高級感とかそういうのはついてこないけど、なんか美味しい。
やっぱり美味しいって奥が深い。
なんでも美味しく感謝して食べたいものだ。