1 モブ
いっちわー!
楽しんで!
「おい、モブ。ジュース買って来いよ。あ、お前の分の金なんてあげねぇから。わかったら買って来い」
教室の隅。教卓からも、大きい黒板からも程遠い教室の隅が僕の定位置だった。
僕の名前は、保科茂武
親がどんなな願いを込めてこの名前を付けたのかわからないけど高校での、いや、小学校でも中学校でも僕のあだ名は、名前をそのまま縮めた『モブ』だった。
なんでだろうな。
生まれ変わりたい。
「……うん、分かった」
「敬語を使えよ、モブが」
「はい、分かりました」
消え入るような声で返事をして、僕はクラスの『主役』たちの顔を見ないようにうつむく。
誰も僕を助けない。
でも、当たり前だ。僕は、『モブ』だから。
先生は教卓の下でスマホを見て、周りのクラスメイト達はまるで僕が視界に入っていないのかのようにふるまう。楽しそうに話をしている。
彼らにとって、僕は人間でもない。背景に置かれたただの『モブ』、いやただのゴミだ。
僕は何もできなかった。
勉強はいつも下から数えたほうが速い、スポーツが特別できる人でもない。
僕はいつも、いわゆる点成型的なセリフを心の中に、つぶやいて、つぶやいて、つぶやいてる。
「いつか見返してやる」「僕のは力がある」こんなの、自分でもわかる『中二病』だろう。
けれど現実は残酷だ。
ヒーローは助けに来ない、遅れてくるにも遅すぎだろう。僕の手から炎が出るわけでもない、出たらなんか、研究所送りにされるのかな。
全員、『モブ』だ。『モブだ』。なんで『主役』がこんなに多いんだ、『主役』は一人でいいだろう。それこそ『主役』が何人もいたら世界が終わる。つまり『主役』は少数派のモブでいいんだ。
「おかしいだろ」
そんなことをつぶやいた瞬間。横断歩道の真ん中で、僕はトラックのライトに体を照らされる。
雨が降り始めた。
――刹那、僕の体に重い「G(Gravity)」が加わってくる。
ブレーキの金属音。雨が強く地面をたたく音。町の人の叫び声。
そんな中僕が思ったのは恐怖というより悲しみだった。
町の人が僕に注目してくれている、なんかうれしいと思ったほどだ。
(僕の人生、だれの記憶に残らないまま終わっちゃったな。死ぬ日ぐらい晴天がよかった、晴天なのに交通事故なんてめったに起こらないか)
道路にたたきつけられ、自分の血が雨と一緒に下水道に流れ込んでいく、雨水と混ざり薄くなっていくのを見つめながら、僕は泣いていた。いや、本当に泣いてたのかな。
でも、もしまだチャンスがあるなら。
もし次の人生があるなら――。
そんな中二病らしき思いを込めながら死んでいった。
(モブなんかで死にたくない。中心になりたい。『主役』に…『主人公』に…)
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