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ちょっとずつケモノ  作者: ちび太


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2/3

なんか変なんだかんだ普通


 

目覚ましの音が、遠くで鳴っている気がした。

鳴っている、と理解するまでに、ほんの少し時間がかかる。

耳に届いてから、頭が「朝だ」と認識するまでの、小さな遅れ。

布団の中で、湊は天井を見たまま考える。

止めないと。

そう思ってから、手が動き出すまでに、また一拍。

スマホを掴み損ねて、枕に落とす。

二度目でやっと止められた。

「……んー」

眠いわけじゃない。

頭は起きているのに、体だけが後からついてくる感じ。

上半身を起こす。

その動作も、どこか水の中みたいにゆっくりだった。

 

洗面所の蛇口をひねる。

水の冷たさが、いつもよりはっきり指に伝わる。

顔を洗い、鏡を見る。

いつもの自分。

寝ぐせ。少しむくんだ目。

ただ、顔を上げたとき、視界が妙に広い気がした。

首を少し傾ける。

後ろのタオル掛けが見える。

「……前から見えてたっけ」

もう一度やる。

やっぱり見える。

「首、どうなってんの?これ」

 

リビングでは、トースターの音が鳴っていた。

父・樹がコーヒーを淹れている。

「おはよう」

湊の声に樹は振り向き、少し目を細める。

「……おはよう」

それだけ言って、マグカップを置いた。


樹がぽつりと言う。

「無理すんなよ」

説明はない。

理由も聞かない。

湊はうなずく。

「うん」

 

家を出る。

朝の空気は少し冷たい。

制服のポケットに手を入れて歩き出す。

 

教室に入ると、陽斗が先に来ていた。

椅子を後ろ向きにして座っている。犬耳が朝日に透けている。

「おはよー……って、なんか眠そう?」

「眠くはない」

湊は席に座る。

カバンを下ろす動作が、ゆっくりになる。

 

授業が始まる。

黒板の文字をノートに写す。

手は動いているのに、行がなかなか進まない。

ペンを持つ指に、妙に力が入る。

パキッ

シャーペンの芯が折れた。

「……あ」

前の席から蒼が振り向く。

猫耳が小さく動く。

「力、入り方変わるやつだな」

「そうなの?」

「初期あるある」

蒼はそれだけ言って前を向いた。

先生は気づいていない。

クラスも普通に授業を受けている。

“特別なこと”という空気がない。

 

休み時間。

陽斗が机に肘をついて覗き込む。

「何寄りか、もう分かった?」

「まだ分かんないや、耳も普通だし、尻尾も生えてこないし」

「俺は最初、匂いだったなー。全部分かって頭パンクしそうだった」

蒼が横から言う。

「タイプ出るまで時間差ある人もいる」

「そうなんだ」

「気になるなら検査行けるぞ。専門外来」

“検査”。

その言葉が、少しだけ胸に引っかかる。

 

昼休み、屋上。

パンの袋を開けたまま、湊はしばらく空を見ていた。

雲がゆっくり流れている。

「食わねーの?」

陽斗の声で我に返る。

「……あ」

パンをかじる。

咀嚼も、ゆっくりだ。

蒼は何も言わず隣に座っている。

急かす人がいない。

笑う人もいない。

それが、少しだけ安心だった。

 

帰り道。

三人並んで歩く。

信号が赤に変わる。

湊は止まる。

陽斗も止まる。

蒼も止まる。

誰も「急げ」と言わない。

ただ、車の流れを見ている。

湊は思う。

前は、もう少し急いでいた気がする。

 

夜、部屋。

ベッドに寝転び、スマホを開く。

「動物特性 初期症状」

記事を読む。

『個人差が大きく、種別判定には検査を推奨』

画面の光が、部屋の天井を照らす。

湊はスマホを胸に置いたまま考える。

「……行くか」

声に出すと、少しだけ現実味が出た。

怖い、よりも。

知りたい、が勝っている。

目を閉じる。

まぶたが閉じる動きは、やっぱり少しだけ、ゆっくりだった。


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