タイトル未定2025/12/18 20:39
学校から、電話がかかってきた。
「お母さま、少しご相談がありまして」
声は丁寧で、落ち着いていて、
こちらを責める色はまったくなかった。
「最近、お子さんが——少し、静かで」
少し。
それだけだった。
「問題行動ではありません」
「ただ、念のためです」
その日から、
“念のため”が増えていく。
連絡帳。
面談。
カウンセリング。
「家庭での様子はいかがですか?」
「最近、何か変わったことは?」
何もない。
何もないはずだった。
けれど、言葉に詰まると、
その“間”が、記録された。
夫が言った。
「先生たちが心配するのも、わかるよ」
祖母も言った。
「昔と違って、今はちゃんと見る時代だから」
誰も、責めていない。
誰も、悪者じゃない。
でも——
子どもは、少しずつ話さなくなった。
ある日、空っぽのノートが返ってきた。
【経過観察継続】
感情表出に乏しい
指示待ち傾向あり
それを見た瞬間、
初めて気づいた。
——この子は、
“問題が起きる前の子”として扱われている。
最後の面談で、言われた。
「最悪の事態を防ぐためです」
「念のため」
その夜、
子どもは自分から言った。
「ぼく、だまってるね」
「そのほうが、いいんでしょ?」
卒業式の日。
壇上で名前を呼ばれても、
その子は、返事をしなかった。
誰も騒がない。
それも、想定内だった。
記録にはこう残る。
「情緒の課題はあったが、
大きな問題は起こさなかった」
念のため、すべてが奪われただけ。




