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疑神暗鬼  作者: 宵町文
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第9話:神の心臓と最終決戦

ついに、アサヒ、シオン、レイの三人は、セレニティの秩序を維持する「神の心臓コア」へと到達した。


目の前に広がるのは、無数の命を燃料とする巨大な古代の殺人機械。そして、コアの制御室には、「秩序の論理」を絶対視する神官長ヴァルナスが待ち受けていた。


シオンの技術的な論理、ヴァルナスの冷徹な支配の論理、そしてアサヒの良心の論理が激しく衝突する。レイは、復讐という感情を、アサヒを護るための盾へと昇華させる。


問う。古代から託された「最後の良心」は、冷酷な支配のシステムを打ち破れるのか。


鍵が回され、動力炉は制御不能な光を放つ。彼らは、瓦礫の山と共に、「神なき世界」へと飲み込まれていく。

Ⅰ.通路の突破と三人の能力の融合

動力炉中心部へと繋がる最後の扉は、彼らがこれまでに潜り抜けたどのセキュリティよりも強固だった。扉を開いた三人を待ち受けていたのは、一本の長く、細く、両壁が特殊な青銅合金で覆われた通路だった。通路は、侵入者を排除するための複合的な古代の防衛システムによって完全に守られていた。


まず、通路の床から高周波振動トラップが作動。床面は視認できないほどの速度で震え、人体内部の平衡感覚を狂わせる。レイは、通路の側壁を蹴り、その猛スピードと戦闘の経験でトラップの起動パターンを計算。振動の非同期性を利用し、物理的な脅威を紙一重で突破した。彼女はもはや、復讐心だけでなく、生きる意志によって動いていた。


次に通路中央で、技術的なセキュリティロックが作動。通路は完全に封鎖され、壁面に無数の古代文字の配列が浮かび上がった。シオンは即座に解析端末を取り出す。これは、彼がラボで見たものよりも遥かに複雑な、古代の技術者たちが設計した最後のセキュリティパズルだった。


「このセキュリティは、論理的な矛盾を解消する形で設計されている。突破には、古代の技術哲学と、数学的論理の最高峰が必要だ」シオンが焦燥を滲ませた。


アサヒは、フラッシュバックで得た古代の記憶と、司書として学んだ古代数式の知識をシオンに提供した。彼は、シオンの解析データから、古代の技術者が意図的に仕込んだ「安全弁」としてのコードの欠陥を指摘。知識アサヒ技術シオンが、論理的な欠陥を突く形で融合し、セキュリティパズルを解き明かした。


三人の能力の完璧な融合が、彼らに最終決戦の舞台への扉を開かせた。彼らは、技術、戦闘、知識の全てのトラップを打ち破り、動力炉の中心部へと駆け込んだ。



Ⅱ.「神の心臓」の視覚化とホログラムの支配者

動力炉の中心部、「神の心臓コア」は、想像を絶する光景だった。巨大な空間の中央にそびえるのは、高さ数十メートルに及ぶ、古代の技術で造られた巨大な変換装置。青白い光を放つコアは、無数の極細のチューブによって都市全体へと繋がっており、そのチューブの中を、人間の生体エネルギーを濃縮した、血のような赤黒い液体が、絶え間ない、生々しい脈動と共に循環していた。


それは、セレニティの平和が、無数のS-ターゲットの命を燃料として、残酷な機械によって成立していたことを、視覚的に証明していた。


その光景は、レイの復讐心を極限まで燃え上がらせ、アサヒの良心を打ち砕いた。アサヒは、この美しくも悍ましい殺人機械の前で、司書として守るべきものの正体を理解した。


その時、コアの制御室から、ヴァルナスの姿が高解像度のホログラムとして空間に出現した。彼は、まるで神殿の司祭のように、冷徹な表情で三人を見下ろしていた。


「ようこそ、ノイズたちよ。君たちの行動は、論理的な最終目的地に到達した。しかし、これ以上は進めない」ヴァルナスは言った。


ヴァルナスは、コアの防衛システムを遠隔操作し、空間の出入口を特殊な合金の隔壁で完全に封鎖。彼らは、古代の殺人機械と、その冷酷な支配者によって、コア内部に閉じ込められた。



Ⅲ.ヴァルナスとの論理の最終対決:三つの思想

ヴァルナスの冷徹な声がコア内部に響き渡る。彼は、自己の支配を絶対的な論理で正当化し続けた。


「君たちの行動は、感情的なテロリズムにすぎない。都市の最大多数(100万人)の調和を維持するためには、少数の犠牲(S-ターゲット)は論理的に不可避である。このシステムは、最も効率的で持続可能な幸福の維持装置だ。私の秩序は、最も合理的な選択だ」


シオンが、技術者としての論理の厳密さで反論した。「ヴァルナス、君の論理には技術的な瑕疵がある。システムは完璧ではない。古代の設計図には、エネルギーの過剰集中による制御不能な暴走リスクが明記されている。君の秩序は、いつか全てを破壊する爆弾の上に成り立っている!」


ヴァルナスは冷笑した。「その暴走リスクは、予測可能な変数であり、私の制御下にある。真の非論理は、君たちの感情的な正義が、都市全体を混沌に落とすことだ。秩序なき自由は、暴力だ」


そして、ヴァルナスの視線はアサヒに向けられた。


「司書。君が持つ鍵は、もともとこのシステムの起動のためのものだった。古代の技術者は、自らの罪を隠すために、それを『停止装置』という美談で塗り替えた。君は、偽りの良心に騙されているにすぎない。良心はノイズだ」


アサヒは、ヴァルナスの冷徹な支配の論理、シオンの厳密な技術の論理、そしてレイの激しい復讐の感情の、三つの間で、自身の良心の論理を打ち立てた。


「違う、ヴァルナス。良心こそが、技術の最高の論理だ。人間が持つべきは、効率的な支配ではない。罪を認め、責任を取り、未来に希望を託すことだ。この鍵は、システムが誤った時に備えた、古代技術者の最後の良心の現れだ!そして、私は、その良心を信じる!」



Ⅳ.停止装置の起動とレイの最終選択

アサヒは、ヴァルナスとの思想の対決を終え、古代の鍵(停止装置)を動力炉の緊急停止ポートに差し込む準備をした。ポートは、コアの最も脆弱な部分に位置していた。


その瞬間、ヴァルナスの遠隔操作により、コア内部の防衛システムが最終攻撃を開始。高密度のエネルギーシールドが展開し、無数のレーザー砲がアサヒの頭上に集中した。


「私に任せろ!お前は早く行け!」レイが叫んだ。彼女は、武器を手に、ヴァルナスの最終攻撃を迎え撃った。レイの心の中で、復讐(破壊)と良心(停止)が激しく衝突していたが、彼女は最終的に、「真の自由」のためには「停止」が必要だと悟った。彼女の怒りは、アサヒの行動を支援するための物理的な盾へと昇華された。彼女は自らの身体を防御システムに晒した。


レイはヴァルナスを足止めし、シオンは防御システムの一時的な停止コードを入力。アサヒは、最後の良心を信じ、鍵を深く、停止ポートに押し込んだ。



Ⅴ.システムの停止とヴァルナスの終焉

アサヒが鍵を90度回転させた瞬間、動力炉のコアは、青白い光から制御不能な、灼熱のオレンジ色の光へと変わった。古代の停止プロセスが起動し、コア全体が凄まじいエネルギーの放出を開始。動力炉は、機能を停止するのではなく、システムが設計した最終的な自壊を始めたのだ。


「馬鹿な…!私の秩序が…!この都市は、調和を失う…!」ヴァルナスのホログラムが激しく乱れた。彼の論理と秩序が崩壊したことに絶望し、彼は最後の手段として、動力炉の「全面自爆プロトコル」を遠隔起動しようとした。彼の目的は、秩序の崩壊ではなく、秩序と共に世界を終わらせることだった。


シオンは、解析端末の全てのリソースを使い、その自爆コードをわずかに上書きし、「崩壊」を「大破」に留めることに成功したが、瓦礫の山は避けられない。


「終焉だ、ヴァルナス」シオンが冷たく言った。


ヴァルナスのホログラムは、動力炉の爆発的な光と熱波に飲み込まれ、ノイズと共に消滅した。彼の秩序への信仰は、彼が頼った技術の崩壊と共に終わった。動力炉は、都市の地下深くに轟音を響かせ、大破した。


アサヒ、シオン、レイは、瓦礫の雨と熱波が降り注ぐ中、最後の力を振り絞り、崩壊する動力炉から脱出を図った。彼らは「神」を停止させたが、その代償として、都市に巨大な混乱と瓦礫を残した。

第9話までお読みいただき、誠にありがとうございます。


この話で、物語の最大のクライマックスである「神の心臓」の停止、そしてヴァルナスの終焉が描かれました。アサヒは、技術シオン感情レイの支援を受け、ついに古代の技術者の良心を具現化し、都市の支配システムを破壊しました。


しかし、その代償は甚大です。動力炉は崩壊し、都市は大混乱と情報の空白に陥ります。


次章、最終話は、この瓦礫と混沌の都市が舞台となります。「神の祝福」を失った市民は、どう動くのか。そして、真実のドライブと自由を手に入れたアサヒ、シオン、レイの三人は、新しい世界で、それぞれの責任と未来をどう選択するのか。


「疑神暗鬼」の旅の終着点、彼らの選択と新しい夜明けを、どうぞ最後まで見届けてください。

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