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疑神暗鬼  作者: 宵町文
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第7話:二つの「鬼」の対決と古代の記憶

「真実のドライブ」を巡る争いは、裏マーケットの旧動力線エリアで、三つ巴の激突を迎える。


司書アサヒと技術者シオンは、レイを人質にとった混乱の支配者タケシと対峙。シオンの純粋な技術とタケシの悪意ある技術が衝突する中、アサヒは古代の鍵を握りしめる。


その瞬間、鍵は真の機能を開放し、アサヒの意識に「停止装置セーフティ・デバイス」としての役割を刻み込む。彼の出自の謎と無実の証明は、古代技術者の最後の良心として結びついた。


しかし、その電子ノイズを検知した神官長ヴァルナスが強行介入。秩序、混乱、真実を巡る戦いは、絶望的な包囲網の中で最終局面に突入する。


問う。絶望的な状況下で、古代から託された「最後の希望」は、機能するのか。

Ⅰ.技術の対立と心理戦

タケシからの傲慢な挑戦状を受け、シオンとアサヒは再び裏マーケットの旧動力線エリアへと潜入した。錆びついた金属の臭いが充満する通路は、都市の秩序の残骸そのものだった。シオンは、特製の小型解析端末を操作し、彼らの道筋を確保していた。


「タケシは、神官団が情報統制に使っている妨害周波数を逆用し、自らの通信網を構築している。極めて原始的な方法だが、この混乱の中では有効だ」シオンは感情を交えず言った。「だが、技術的な悪意は、必ず論理的な隙を生む。彼のシステムは、支配欲という感情に汚染されている」


シオンの端末がタケシのシステムに深く潜り込み、潜伏位置を正確に示した。シオンの純粋な技術が、タケシの悪意ある技術を凌駕した瞬間だった。


隣を歩くアサヒは、再び閉所と、その先に待つ人間同士の殺意という対人恐怖に苛まれていた。彼の体は冷たい震えに襲われ、呼吸は浅いが、レイを救うという使命感、そしてシオンの告発を覆す自己証明への渇望が、彼を突き動かしていた。


「司書」シオンが突然、立ち止まった。「タケシの真の目的はレイではない。真に求めているのは、君が持つ古代の鍵だ。彼は、その鍵が、このシステム、そして組織の新しい支配の道具になると信じている。彼の心にあるのは、ヴァルナスと同じ『鬼』の論理だ」


アサヒは、ポケットの中でマスターキーを強く握りしめた。この鍵が、自分の無実を証明するどころか、新たな支配の道具にされようとしている事実に、彼は戦慄した。鍵の冷たさが、彼の手のひらに深く食い込んだ。



Ⅱ.タケシとの対面と支配の要求

旧動力線エリアは、かつて都市に莫大なエネルギーを供給していた廃墟のボイラーとケーブルが絡み合う、権力の残骸のような巨大空間だった。その中央に、タケシは拘束されたレイと共に立っていた。レイの目は、タケシへの憎悪と、アサヒへの警告を同時に放っていた。


「来たか、裏切り者たちよ」タケシは嘲笑した。彼の背後には、彼に従う組織の強硬派数名が、改造された重火器を構えていた。


タケシはレイを、まるで所有物のようにアサヒの前に突き出した。「これが、怒りの鬼。支配を拒否する愚かな女だ。さあ、古代の鍵と真実のドライブを交換しろ。そうすれば、私は彼女を解放し、お前たちを組織に迎え入れよう。我々は、神官団に代わる新しい秩序を築くのだ」


タケシの要求は、レイを人質に取るという感情的な暴力と、技術による支配という論理的な要求を混ぜ合わせた、最も悪質な「鬼」の論理であり、ヴァルナスの秩序の支配を真似た、より凶悪なコピーだった。



Ⅲ.「鍵」の引き渡し寸前とシオンの技術者としての矜持

アサヒはレイを救うため、震える手でポケットから古代の鍵を取り出した。彼の心は叫んでいた。鍵を渡せば、彼は支配の共犯者となる。渡さなければ、レイの命を奪うことになる。倫理と命の板挟みだった。


「待て」シオンが冷たく遮った。彼の目は、レイの安否ではなく、タケシの技術的な間違いに向けられていた。「この鍵の論理的な価値は、ドライブを遥かに上回る。タケシ、交換には応じない。お前の技術的な傲慢さに、私は技術者としての矜持を以て対抗する」


シオンは瞬時に解析端末を起動し、タケシの通信システムに「論理的なウイルス」を送り込んだ。そのウイルスは、タケシのシステムが依拠する不正な周波数帯を逆利用し、回路を自己破壊へと誘導するよう設計されていた。タケシが構築したハッキングされたネットワークは、突然、意味不明なエラーメッセージと、不快な高周波のノイズで満たされ、彼の視界を混乱させた。


「何っ!?」タケシは動揺した。彼の混乱の支配が揺らぐ。シオンは、技術の悪用を許さないという、感情を排除した技術者としての強固な倫理を示したのだ。



Ⅳ.鍵の真の機能とアサヒの記憶の覚醒

シオンの介入による電子的な混乱に乗じて、アサヒはタケシが鍵を奪い取る直前に、鍵を強く握りしめた。アサヒの指と鍵の接合部から、数百年分の静電気のような強力なエネルギーが流れ込み、彼の全身の神経を一瞬で麻痺させた。


その瞬間、鍵が激しく青白い光を放ち、アサヒの意識に洪水のようなフラッシュバックが起こった。それは、単なる幻視ではない。鍵にデータとして封印されていた、古代技術者の最後の意志の直接的な伝達だった。


アサヒの脳裏に焼き付いたのは、動力炉の建設に関わる古代の技術者の姿、そして彼らの切迫した会話の断片だった。


「…このシステムは、あまりにも強力すぎる。我々の制御を超えている。いつか必ず暴走し、都市を破壊する。故に我々は、これに逆機能リバースファンクションを組み込むべきだ!」


「そうだ。この起動キーは、同時に最終的な停止装置シャットダウン・キーとして機能する。これを「安全装置セーフティ・デバイス」として、未来の良識ある管理者に託すのだ…!」


アサヒは悟った。あの鍵は、S-ターゲット抽出システムを起動させるためのものではなく、システムを停止させるための「安全装置」であり、古代の技術者たちが未来に託した最後の良心だったのだ。シオンの告発は、技術的な真実に近づいていたが、鍵の真の目的を誤認していた。アサヒの出自は、裏切り者ではなく、最後の防衛者の血筋であったことが示唆された。



Ⅴ.ヴァルナスの介入と三つ巴の乱戦

鍵の発光と、タケシとシオンの技術的対立によって発生した極めて強力な電子ノイズは、神官長ヴァルナスにとって、「秩序の乱れ」を示す最大の、そして無視できないシグナルだった。


アジトの隔壁が爆音と共に破壊された。ヴァルナス率いる神官団の追跡部隊が、冷徹な銃口を向け、光と煙と共に強行突入してきた。


「このノイズの震源地だ。技術と混乱、その全てを排除せよ」ヴァルナスは冷静に命じた。


状況は一変した。タケシの組織(混乱の支配者)、アサヒ・シオン(真実の探求者)、神官団(秩序の支配者)の三つ巴の乱戦が、旧動力線エリアで勃発した。


レイは混乱に乗じて自力で拘束を解き、長年の怒りを全て込め、タケシに組みついた。彼女の復讐の炎は、タケシの支配欲を打ち砕く。


アサヒはフラッシュバックで得た「安全装置」の記憶を、シオンに向かって叫んだ。「シオン、聴いてくれ!この鍵は、停止装置だ!これを動力炉に入れれば、システムは停止する!」


シオンは、その情報を瞬時に解析し、古代技術の論理と照らし合わせ、「その情報は、論理的に正当である」と判断した。古代の技術者は、システムの暴走を見越して「最後のスイッチ」を用意していた。


しかし、ヴァルナスの部隊が彼らの脱出路を完全に封鎖。タケシはレイの反撃とヴァルナスの部隊の攻撃を受け、意識不明のまま瓦礫の下敷きとなった。彼らは、タケシという裏切り者の敗残兵と、古代の鍵が示す最後の希望を手に、神官団に四方八方から包囲されるという、絶望的な状況に追い込まれた。真実の鍵は手に入れたが、動かすための道は完全に断たれたのだ。

第7話までお読みいただき、誠にありがとうございます。


この話は、物語の最大の謎であった「古代の鍵」の真の役割が明らかになった、決定的な転換点です。アサヒは、シオンの技術的な告発を乗り越え、自らの出自と使命を理解しました。鍵は、システム起動のための裏切りの証ではなく、システムの停止のための最後の良心の証だったのです。


タケシとの決着はつきましたが、彼らが直面するのは、神官長ヴァルナスが完成させた冷徹な包囲網です。手には真実ドライブと希望(停止鍵)があるにも関わらず、それを動力炉に届けるための道が完全に断たれました。


次章は、この絶望的な状況を、彼らが技術と知恵でどう打ち破るか、最後の脱出と決戦の舞台となります。「疑神暗鬼」の物語は、いよいよ「神」との最終対決へと向かいます。彼らの運命を、どうぞ最後まで見届けてください。

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