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疑神暗鬼  作者: 宵町文
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第6話:都市のパニックとシオンの再会

「真実のドライブ」の接続により、セレニティの調和は崩壊した。


都市全体に「システム異常」の警告が流れ、市民はパニックに陥る。神官長ヴァルナスは即座に情報統制を開始し、真実をノイズとして扱おうとする。


追跡を逃れ、分断された司書アサヒは、最も恐れていた「人間」の悪意に直面する。その危機を救ったのは、彼を「裏切り者」と断じたはずの技術者シオンだった。シオンは「論理的必要性」に基づき、アサヒと一時的な技術的再同盟を結ぶ。


しかし、新たな脅威が迫る。シオンの技術を悪用した組織の強硬派タケシが、レイを人質に取り、古代の鍵とドライブを要求してきた。


問う。この混乱の支配者を目指す「新たな鬼」に、彼らはどう立ち向かうのか。


二人は、論理と自己証明のため、再び裏切りの渦巻く裏マーケットへと向かう。

Ⅰ.真実の拡散、パニックの始まり、そして神官団の統制

レイが「真実のドライブ」をメインケーブルに接続した瞬間、シャフト全体が爆発的な電子音に包まれた。それは、数百年にわたり守られてきた偽りの調和を打ち破る、真実の咆哮だった。都市の神経網を駆け巡ったデータは、全ての市民の個人端末、広場の巨大ビジョン、街路のデジタルサインに、「警告:システムコアの整合性エラー発生。調和プロトコル緊急停止」という、信じがたい「異常」の文字を叩きつけた。


シャフトの上部から神官団の追跡部隊が侵入してくる直前、レイはアサヒを掴み、爆破で開いた通路から別の垂直配管へと滑り込んだ。配管内を滑り降りる間、アサヒの頭の中には、都市の崩壊という、これまで想像もできなかった光景が広がっていた。


セレニティ全域。市民の個人端末は狂ったように点滅し、青い光に慣れた市民の目に、赤い警告の光が焼き付いた。誰もが「異常」という言葉を初めて目にし、動揺し、指示を求めて周囲を見回す。長年の「思考の統制」により、市民は「パニックの仕方」すら忘れていた。彼らは逃げるべきか、待つべきか、その判断基準を失っていた。


中央制御室。神官長ヴァルナスは、静かにモニターを見つめながら、指先一つで都市を操作した。「さすが、古代技術の残滓だ。予想以上の拡散速度だ。しかし、真実そのものが、調和を乱すノイズであることに変わりはない」ヴァルナスは部下に命じた。「直ちに対応プロトコル『調和の保護(プロトコルΩ)』を発動せよ。全ての情報端末に極度のノイズ(妨害周波数)を流し、このデータを『悪意ある誤報フェイクニュース』として上書きしろ。物理的にシャットダウンが可能な端末は、すべて停止させろ」


神官団の情報統制は迅速かつ冷酷だった。都市は一瞬で、真実のデータと、それを打ち消す「神の祝福」という名のノイズが入り乱れる電子的な戦場となった。市民は情報に触れるものの、すぐに「誤作動」として画面が真っ暗になるか、以前の「調和メッセージ」に戻され、混乱しながらもパニックを抑え込まれ始めた。真実は拡散されたが、信じさせる力を失い始めていた。



Ⅱ.逃走と分断、そしてアサヒの対人恐怖

レイとアサヒは、地上の混乱に紛れてシャフトの出口から中央広場付近の廃墟地帯へ出た。市民の集団は、ヴァルナスによる情報統制の影響で、極度の不安と互いへの不信を露わにしていた。


「データは流れた。あとは、奴らがどう反応するかだ」レイは、辺りを見回した。彼女の首元の父のペンダントが激しく震え、異常な熱を帯びている。「私は次の場所へ向かう」


「次の場所?」アサヒが尋ねた。


「ペンダントが反応している。システムが、このパニックの中で、新しいS-ターゲットを緊急で抽出する準備に入ったのかもしれない。次の犠牲者が誰か、それを突き止める」レイの目は復讐の炎に燃えていた。彼女の目的は、暴露から阻止へと移行していた。


その時、瓦礫の向こうから、ヴァルナス率いる神官団の追跡部隊が、市民の混乱をものともせず、正確なルートで二人を追っていた。彼らの行動は、論理的な計算に基づいていた。


「分断するぞ!」レイは叫び、アサヒの背中を押した。レイは、市民の流れを利用して、巧妙に人混みの中へと消えていく。


アサヒは、この瞬間、自身の恐怖の焦点が「閉所」から「人間」へと変わったことを悟った。逃げる市民の無表情な顔、迫りくる追跡者の冷たい視線、全てが彼の対人恐怖を深く抉る。司書のデスクから離れた「外の世界」の全てが、凶器となって彼に迫ってきた。アサヒは、追跡者に追い詰められ、錆びついたコンテナの陰に身を潜めた。彼は、生身の人間の集団的・組織的な悪意に、初めて直面していた。



Ⅲ.タケシの暗躍と技術の悪用

同じ頃、動力炉関連の古い配管区画にあるシオンが破棄した解析ラボに、裏組織の強硬派タケシが侵入していた。タケシは、シオンが撤退時に残した解析機器の残渣、特にデータログとアルゴリズムの断片を貪欲に漁っていた。彼の目的は、シオンの天才的な技術を奪い、自らの支配欲を満たすことだった。


「シオンめ。天才だが、詰めの甘い男だ」タケシは嘲笑した。


タケシは、神官団が情報統制に使っている妨害周波数を逆手に取った。彼は、シオンの残渣データから妨害周波数のパターンを解読し、それをハッキングすることで、裏マーケットと地下組織を完全に支配するための広域通信・支配ツールを作り変え始めた。これを使えば、神官団の目を欺き、裏マーケットの情報網を完全に支配下に置くことができる。


「ヴァルナスは秩序で支配する鬼。レイは怒りで暴走する鬼。だが、この混乱を掌握し、新しい世界を作るのは、技術を悪用する新たな『鬼』、私だ」タケシの瞳は、力への渇望でギラついていた。彼は、この都市の混乱を、自らが闇の支配者となるための完璧な舞台と見なしていた。



Ⅳ.シオンとの再会と「論理的」救出

追跡者の足音がアサヒの隠れているコンテナのすぐ外に迫る中、アサヒは諦めかけた。その時、彼の耳元に、微細な電子音が囁いた。その声は、アサヒの不安な周波数帯を打ち消すような、冷たく安定した周波数を持っていた。


「動くな、司書。私は技術で奴らの目をごまかす。感情の波長を下げろ」


その声は、シオンだった。


シオンは、神官団の監視ドローンが発する微弱な信号の間に、一瞬の「技術的な空白」を作り出し、その隙にアサヒを掴んでコンテナの裏側へと引きずり込んだ。シオンは、追跡者の監視網が感情の波長を優先して追跡していることを知っていた。


「なぜ…私を助けたんだ、シオン…」アサヒは息を切らしながら尋ねた。シオンはアサヒを裏切り者だと断じたはずだ。


シオンは無表情に答えた。「君の無実を信じたわけではない、司書。この混乱の中で、真実のデータ(ドライブ)を巡る核心を知る君を失うことは、論理的に見て最悪の選択だからだ」


シオンは、ドライブが接続されたことで都市のシステムに生じた電子的な歪みを解析していた。「君は、私に真実の解析を続けさせ、この問題を論理的に解決させるための、最も効率的なキーだ」シオンはそう告げ、アサヒへの個人的な疑念は一切変わっていないことを強調した。


ここに成立したのは、友情でも信頼でもない、目的遂行のための冷徹な「技術的再同盟」だった。シオンは、アサヒの古代の鍵の真の機能を再調査し、この騒動の論理的な結末を見つけることを、次の目標とした。



Ⅴ.予備ラボへの潜伏とタケシからの挑戦状

二人は、シオンが都市の隅に用意していた予備ラボ(隠れ家)に潜伏した。そこは、神官団の監視網から外れた、技術的な盲点だった。


シオンが解析装置を立ち上げると、都市のネットワークから発生している異常なノイズに気づいた。それは、神官団の妨害周波数が意図的に変調され、特定の通信帯域を掌握していることを示していた。


「…私の残渣データが使われている。タケシめ」シオンは強い技術者としての侮蔑を滲ませた。タケシは、シオンが残した技術の断片を悪用し、裏マーケットを掌握しようとしている。


その瞬間、シオンの予備端末に、極めて高度に暗号化された通信が入った。発信元は、タケシだった。


タケシの声は、勝利を確信したような傲慢さに満ちていた。


「シオン。お前が逃がした怒りのレイは、今、私の手の中だ。彼女は、次のS-ターゲット抽出場所を探している途中で、私の支配下に置かれた」タケシは、レイの復讐心を逆手に取ったのだ。


「私の求めるものは二つだ。一つは、真実のドライブ。そしてもう一つは、古代の起動キー(アサヒ)だ。どちらか一つでも欠ければ、裏マーケットとレイは、都市の混乱の生贄となる」


タケシは言い放った。「二時間以内に、裏マーケットの旧動力線エリアへ来い。待っているぞ、裏切り者たちよ。神官団の前に、お前たちの命は、この私によって終わる」



Ⅵ.決意と裏マーケットへの潜入

レイが危機に晒されていることを知ったアサヒの瞳に、決意の光が灯った。彼の無実の証明と、レイの命という二つの重要な要素が、タケシによって結びつけられてしまった。


「行こう、シオン。レイを助けに」アサヒは言った。もはや、自己の恐怖を優先する余地はなかった。


シオンは、自身の技術が、感情的な「鬼」に悪用されていることに、強い技術者としての怒りを覚えていた。「私の技術を汚すことは許さない。タケシは、自分の愚かさと、技術を冒涜した代償を知るべきだ」


二人は、レイとドライブ、そして自身の運命を賭け、タケシが潜む裏マーケットの旧動力線エリアへと向かうことを決意した。しかし、この行動は、神官団とヴァルナスに二人の居場所を再び正確に特定されるという、決定的なリスクを伴っていた。


都市のパニックと裏組織の内紛という二重の混乱の中、アサヒとシオンは、さらなる「疑念」の渦中へと、論理と怒りを道連れに飛び込む。

第6話までお読みいただき、誠にありがとうございます。


この話では、「真実の暴露」が必ずしも「秩序の勝利」に繋がらないという、ディストピアの現実を描きました。ヴァルナスは秩序の鬼として、タケシは混乱の鬼として台頭し、危機は多層化しました。


シオンとアサヒは、友情ではなく論理に基づく再同盟を結びましたが、彼らが向かう先は、レイという人質、そしてタケシという技術を悪用する新たな支配者が待ち受ける場所です。


次なる対決は、技術と欲望の直接衝突となります。シオンの純粋な技術と、タケシの悪意ある技術、そしてアサヒの無実の鍵が、どのような結末をもたらすのか。混乱の中で、彼らの運命が交差する瞬間を、どうぞご期待ください。

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