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疑神暗鬼  作者: 宵町文
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第3話:地下の邂逅と組織への疑念

「神」の祝福を疑い、「暗」黒の真実に触れた司書アサヒと技術者シオンは、神官団の追跡を逃れ、都市の裏側へと潜入した。


しかし、彼らを待っていたのは、秩序の支配者だけではない。裏マーケットで出会ったのは、復讐に燃えるレイと、新たな支配を望む組織の「鬼」たちだった。


真実を暴く鍵は手に入れた。だが、それは相互の「疑念」という鎖で繋がれた、極めて不安定な同盟の始まりを意味する。アサヒの理想、シオンの論理、レイの怒り――この三つ巴の協力関係は、神官団の監視、そして組織の内部分裂という二重の脅威に晒される。


問う。あなたは、命運を委ねた相手を、心から信じられますか。


これから始まるのは、不信を前提とした逃走と解析のスリラーである。

Ⅰ.闇への道と深まる疑念

夜が明け、セレニティの人工的な朝日が都市を照らす中、アサヒとシオンは裏マーケットへと続く、閉鎖された地下通路の入り口に立っていた。通路は狭く、空気は冷たい。アサヒの全身は、既に閉所恐怖症の発作が起きる一歩手前で硬直していた。


「この通路は、緊急時の物資輸送のために神官団が極秘に作ったものだ。だが、今は監視が手薄になっている」シオンは冷静に言った。彼はラボで用意した小型の分析装置を取り出し、周囲の電磁波をスキャンしている。「入ったら、君の感情のノイズを最小限に抑えろ。神官団の監視システムは、物理的なカメラよりも、高ぶった感情の波形を追跡する可能性が高い」


「分かっている」アサヒは絞り出すように答えた。恐怖は彼の思考を鈍らせるが、シオンの冷静な技術分析は、皮肉にも彼の理性を保つ杭となっていた。「だが、君も油断するな。彼らの監視システムが、君の技術的乱数に慣れたら終わりだ」


シオンはアサヒを一瞥した。その視線には、「感情論で技術を語るな」という軽蔑と、「鍵の真実を話せ」という静かな「疑念」が混じっていた。昨夜のマスターキーの残渣について、シオンはまだアサヒに何も問うていなかったが、その事実はシオンの論理回路の中で、未解決のバグとしてくすぶり続けている。


「神官団の視線で考えろ」シオンは続けた。「彼らは我々を秩序を乱す技術者と司書と見ている。我々が向かう場所は、その秩序の外側だ」


アサヒは深呼吸し、闇へと続くハッチをこじ開けた。湿った空気と、地下動力炉の遠い「心臓の鼓動」が、再び聴覚を侵食する。



Ⅱ.裏マーケットの混沌とレイの出現

薄暗い通路を抜けると、彼らは広大な地下空間にたどり着いた。そこが裏マーケットだった。


セレニティの表の秩序とは対照的に、ここは欲望と生存本能がむき出しになった場所だ。人々は顔をフードで隠し、互いに疑いの目を向けながら、物資や情報を交換している。全ての取引には、剥き出しの「疑心」が前提にあった。


シオンはすぐさま目的の古代の電力変換器を探し始めた。その希少な古代部品は、動力炉の生贄システムを解析する最後の鍵となる。


アサヒが周囲の不穏な空気に耐えかねていた、その時だった。


「動くな!」


鋭い女の声が響いた。背後には、黒い服に身を包んだ一団と、その先頭に立つレイがいた。彼女の瞳は鋭く、全身から研ぎ澄まされた怒りを放っている。


レイはアサヒとシオンを神官団のスパイだと断定していた。「その技術的なガラクタ、神官長に流すつもりだろう。この地下に、秩序の犬の居場所はない」


レイの仲間たちが武器を構え、二人に詰め寄る。アサヒは動揺し、再び体が硬直しかけた。


シオンは冷静だった。「我々はスパイではない。その技術的なガラクタは、あんたたちが神と呼ぶものの正体を暴くために必要だ」


「戯言を」レイは唾棄した。「神官団の手先は、いつもそう言う。さあ、抵抗するな」


彼女の命令で、二人は拘束された。レイはアサヒの司書服とシオンの違法な解析機材を見て、敵意を露わにした。その敵意は、憎しみの過去に根差している。



Ⅲ.被害者レイの動機とペンダントの秘密

レイはアサヒとシオンを、裏マーケットからさらに奥に隠された地下組織「シャドウ」の仮アジトに連行した。そこは、かつて神官団の廃棄施設だった場所で、組織の者たちの、諦めと怒りが充満していた。


尋問が始まった。レイはテーブルを叩き、アサヒに迫る。「お前たちの真の目的は何だ?なぜ、秩序の恵みを享受するお前たちが、わざわざこの闇に来た?」


アサヒは、言葉に詰まりながらも、見たままの真実を話した。古文書の記述、動力炉の「唸り声」、そして「神の祝福」の裏側にある生贄システムの可能性。シオンは、解析データをレイの簡易モニターに提示した。


「これは、技術的な真実だ。あんたの感情論ではない。このシステムは、特定の周波数の生命エネルギーを消費している。あなたの父親が『感謝祭』で失踪した理由も、そこにある可能性が高い」


レイの表情が初めて凍り付いた。彼女は首から下げたペンダントを強く握りしめた。それは、亡き父の形見だった。シオンはそれに気づき、解析装置をペンダントに近づけた。


装置が、微かな電子音を上げた。


「これだ。このペンダントは、エネルギー感知装置だ。あなたの父親は、生贄システムの技術的な秘密に気づいていた。だからこそ、彼は『適性』として選ばれ、そして、この装置に、動力炉の異常な活動の波形を記録していたんだ」


レイは愕然とした。父の死は、単なる運命ではない。それは、神官団による裏切りと、技術による殺人だった。ペンダントの異常な反応は、シオンの解析データに信憑性を与えた。



Ⅳ.欲望の「鬼」タケシの介入

レイがアサヒとシオンを「協力者」と見なそうとした、その時だった。アジトの扉が開き、強硬派のリーダー、タケシが数人の屈強な男たちを引き連れて現れた。彼の顔には、隠しようのない征服欲と支配欲が滲んでいる。


「レイ、よくやった。神官団の犬を捕らえたな」タケシは高圧的な声で言った。「そいつらの技術を奪え。神の力を手に入れ、お前が新しい支配者になればいい。それが、俺たちが地下に潜った理由だろう」


タケシの視線はシオンの解析装置に釘付けだ。彼にとって、アサヒたちの「真実の追求」など、取るに足らない理想論に過ぎない。彼の目的は、力を奪い、支配すること――すなわち、新しい「鬼」になることだった。


「待て、タケシ」レイが制止する。「彼らは真実を暴こうとしている。父の仇を討つには……」


「仇討ちだと?甘ったれたことを言うな!」タケシは怒鳴りつけた。「仇を討つ最速の方法は、神官長を殺し、その椅子に座ることだ。そいつらを殺害し、その技術を奪え!それが組織の総意だ!」


アサヒとシオンは、今や神官団だけでなく、組織の内部の「鬼」からも命を狙われるという、二重の危機に直面した。



Ⅴ.レイの決断と「疑」を前提とした同盟

タケシの言葉は、レイの心に激しい波紋を呼んだ。タケシの言うことは、あまりにも現実的だった。力の前では、理想など無力だ。父の復讐を果たすためには、武力と、その背後にある神の技術が必要なのではないか?彼女の中の「支配欲(鬼)」が、一瞬、タケシの主張に傾きかけた。


アサヒは、レイの揺らぎを見て、必死に訴えた。「タケシの望みは、今の神官団と同じ支配だ!僕たちが暴きたいのは、技術の悪用だ。僕たちは新しい支配者ではなく、真実の語り部が必要なんだ!」


シオンは、感情的なアサヒとは対照的に、冷静にレイを見た。「技術の力は、持つ者の心一つで神にも鬼にもなる。君の父親は、それを知っていた。技術を奪うのではなく、解体しなければ、この都市は永遠に変わらない」


レイはペンダントを強く握りしめた。彼女の決断は、都市の未来を決める。彼女は、タケシの暴力的手段と支配欲を拒否した。


「……タケシ、彼らは協力者だ。手を引け」


レイの強い眼差しに、タケシは舌打ちをし、憎々しげにアサヒたちを一瞥してから、男たちと共にアジトから去った。


レイは、疲弊した顔でアサヒとシオンを解放した。そして、一つの包みを差し出した。中には、シオンが探していた古代の電力変換器が入っていた。


「これが、お前たちの言う真実への鍵だ」レイは冷たく言い放った。「ただし、覚えておけ。私がお前たちを信じたのではない。お前たちの技術が、私の父の死と繋がっただけだ」


レイはシオンに要求した。「解析の結果を、まずは私に見せろ。そしてアサヒ、もしお前たちが私を裏切ったら、神官長よりも先に、この私が、お前たちを始末する」


アサヒ、シオン、レイの三つ巴の協力関係が、相互の「疑念」を前提として、ここに成立した。彼らが手にしたのは、希望ではなく、さらなる不信と裏切りの危険性だった。

第3話までお読みいただき、誠にありがとうございます。


この話で、物語の核心である「疑神暗鬼」の要素が完全に揃いました。主人公たちは、神官団という外敵だけでなく、協力者であるレイ、そしてその組織に潜むタケシという内なる「鬼」に直面しています。さらに、シオンはアサヒへの「疑念」を抱き、三人の関係は最初から不信を前提としています。


真実への道は開かれましたが、それは同時に裏切りと犠牲の危険性が増したことを意味します。


次なる舞台は、シオンの解析ラボ。手に入れた「古代の電力変換器」が、「神」の技術の全てを白日の下に晒すでしょう。どうか、彼らの命が尽きる前に、その真実が何であるか、見届けてください。

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