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ピカピカの一年生

「俺は学生になった」の続編

一番楽なコースを選択して大学生になった俺

関西の国大を受験して合格した妹

研究の為に渡米した大学院生の兄貴

何故か、「私も女子大生」と豪語する鬼婆ことお袋

いったい、どおなる規格外の家族


俺の名前は小柳こやなぎレオ、ピカピカの一年生。

・・・と言っても小学生ではなく、大学生だ。

現在、鬼婆おにばばあことお袋と二人暮し。と言っても一人っ子ではない。

アメリカの大学院で研究している、年の離れた兄貴のナオ、そして同じ年の妹レイラがいる。

妹さまは関西の有名国立大学の学生、それも医学部である。俺は三流私学の社会学部。

当然、妹は関西で一人暮らしだ。

俺と妹は年が同じ、つまりツインズだ。なのに遺伝子いでんしは・・・違うらしい。


俺のこれまでのハッピーな生い立ちは「俺は学生になった」を読んで欲しい。

妹は受験を突破とっぱして、俺たちは付属高校から何とか大学にもぐりこみ・・・

俺たち3人はめでたく、大学生活を開始したわけだ。

3人と言うのは俺と双子ツインズの妹レイラそして、ガールフレンドのヒマワリだ。

高校時代の同級生、ヒマワリは俺の家の下宿人というところだろうか。

ヒマワリの親父おやじさんと俺のおふくろとの間でどんな話があったのかは知らないが、

たった一人の家族である親父さんが仕事で海外に居る時は俺の家から通学している。


小学校から高校までの規格外きかくがいの日々はご存知ぞんじのとおり、婆に振り回されっぱなし。

大学生になった俺はごく普通の学生生活を期待していた。

しかし、またもや期待は裏切られる。


大体、考えても見て欲しい。

大学生の俺たち双子、アメリカに留学している大学院生の兄貴、大学院に籍を置くお袋。

家族全員が学生という奇妙きみょうな状態である。

まあ、学費を出してもらって文句は言えないが、すごい家族だ。


大学に通いだして驚いたのが部活の勧誘かんゆうである。

大学の正門を入ってから教室までが大変である。

こんなに多くのクラブやサークルが何処どこで活動するのか?心配になる程の出店でみせの数である。

それぞれに机を並べ、看板かんばんやポスターをだして、新入生の勧誘かんゆうをしている。

テニス関係のクラブだけでも片手では済まないのではないだろうか?

体育会のクラブは公式テニス部と軟式テニス部があるようだがサークルは数に制限が無いらしい。

同じぐらい多いのがサッカーだろうか?

流石さすがに体育会系のクラブは学校名の入ったそろいいのジャージスタイルで雰囲気ふんいきが違う。

筋金すじかね入り!という空気がただよう。


スポーツ大好きの俺は、つい、きょろきょろしてしまう。

「おい!」とけ声と同時にバスケットボールをパスされた。

俺をマークする奴が目の前に立ちはだかる。

休み時間に楽しむのかゴールが一つ、右手に見える。

俺は軽くディフェンスをわして手の下をくぐり、数歩ドリブルをしてシュート!

・・・と決めてしまってから、わなに気がついた。

「中々、すじがよいね。高校はバスケ部かな?」

さっき、俺にボールをパスした上級生らしい人が話しかけてきた。

「とんでもない。遊びです。俺は・・・」何と答えたものだろうかと躊躇ちゅうちょした。

「でも、中々、筋も良いし、トレーニングはしているようだが・・・」

「・・・」彼は俺の姿を頭のてっぺんから足先までながめて続けた。

「スポーツをやっている体型だけど、高校では何か部活をやっていた?」

「ええ、スキーをやっていました」

「そう、大学でも続けるのかな?」

「はい、その心算つもりです」

「そうか、では無理にとは言えないけど、バスケ部は何時いつでも君を受け入れるよ!」

「はい、ありがとうございます」

「どうだ、やってみないか?ヤッパリ、スキーを続けるか?」

「申し訳ありません。やはり、スキーを続けようと思います」

上級生は、何か言おうとしたようだが、その次の言葉を飲み込んだ。

「じゃ、失礼します」「おお」


俺たちの会話を聞いていたのか・・・

後ろから追いかけて来た女子に囲まれた。

「スキーやっていたんだって?」

「サークル入らない?」「楽しいよ!」

矢継やつぎ早に次々と声をかけられる。

「えっ?サークルですか?」

「そう、皆でスキー検定を受けるために練習したり・・・一緒にやらない?」

「はあ、あまり級は興味ないから・・・」

「でも、ヤッパリ、バッチ試験の2級とか1級を目指すと上達するし、バッチ試験知ってる?」

「はぁ・・・一応1級は持っていますけど・・・」

「えっ!すごい!この子、1級持っているんだって!何時いつ、取ったの?」

「はあ、小学校の時に9歳です」「えっ・・・ジュニア検定じゃないよ!」

「はあ、ジュニアは2級までしか持っていません。大人の1級です。」

上級生らしい女の子達はごそごそ話をしていたが、いぶかしそうに俺を見ている。

自分達がからかわれたと思ったのだろうか?

でも、事実である。大学生と一緒に受験して俺とレイラは合格した。

「すみません。授業があるので・・・」

俺は早々に逃げ出した。


俺が、先輩達とふれあいの一時を楽しんでいる間、ヒマワリは・・・。

物陰ものかげからそっと、此方こちらのぞいている。

人が集まってくると慌てて俺から離れるあたりは内気なヒマワリ、流石さすがだ。

おれはヒマワリに目配めくばせをすると教室に向った。

ヒマワリはそっと後ろを付いてくる。


それにしても、肝心かんじんなスキー部は現れない。

エースの俺を勧誘かんゆうしないとは・・・。

グズグズしていると、浮気うわきするぞ!!


大学に入って驚いたのは、授業を選ぶのが難しい。

大学では好きな授業が選べると思っていた俺は見事に裏切うらぎられた。

教養科目では、興味きょうみも無いのに学習する一群がある。

体育もあれば英語もある。

特に一年生は時間割の中にも選べる科目が少なく、指定される授業ばかりだ。

科目名を聞いても内容がピンと来ないのだから、指定される方が楽かも知れない。

あれは駄目だめ、これは必要と指定されるのに自分で手続きするのは面倒めんどうだ。

更に授業の登録手続きが良くわからない。

勝手に決めたなら手続きもしてくれれば良いのに・・・。

人気のある授業は抽選ちゅうせんだという。

そんなの入学時の契約書けいやくしょに書いてなかったぞ。

俺のように特にどうしても取りたい科目が無い人間は関係ないが・・・。

どうしても聞きたい科目が抽選に外れたらどうなるんだろう?

今時、居ないとは思うが、どうしても聞きたい教授の授業があって入学した場合は・・・。


忙しく、大学に通いだした俺とヒマワリだが・・・。

一年生なので共通する授業が多い。

・・・となると、大人しいヒマワリは何となく、陰のように俺の近くにいる。

更に付属から進学した小学校から共にすごした友人たちとも毎日、顔を合わせる。

何だが、高校時代と変わらない安心感もある。逆に言うと緊張感きんちょうかんがない。


妹のレイラは・・・というと無事に関西で生活を始めたらしい。

兄貴のナオがレイラの入学式に出席したので、その様子を少し聞いたが・・・、

兄貴は、直ぐに渡米してしまった。

渡米後はMIT(マサチューセッツ工科大学)で研究を始めているとか・・・。

お袋はというと・・・これまた、T大学の研究室に通いだした。

・・・と言っても、仕事のかたわら週に一度である。

暮らす場所は離れているが、レイラとは毎日、数本のメールが飛び交う。

メールの数だけを見ると、従来よりも増えてた気がする。

兄貴は・・・それでも、たまに、メールが届く。

お袋には研究の事も含めて色々、やり取りしているようだ。


俺は大学のスキー部が勧誘かんゆうに来るまでは放置することに決めた。

実は例年参加する4月初めに開催するFISレースに出場したのだが・・・。

まさか、卒業した高校名でエントリーするわけにもいかず・・・。

『付属高校』と言う記述をはぶいてエントリー票を提出した。

ところが何のまぐれか、間違いか、うっかり回転競技スラロームで優勝してしまった。

その表彰状が大学のスキー部宛てに送られて来たことで事件が起きた。


授業が終わった教室にスキー部の先輩方せんぱいがたが俺を探しに現れた。

名前を呼ばれたので返事をすると10名くらいの先輩に取り囲まれた。

俺の近くにいたヒマワリは顔をこわばらせ、青ざめている。

授業が終わり、立ち去ろうとしたクラスの友人も怪訝けげんな顔をして様子をうかがっている。


二年生の和久井と名乗る先輩が・・・。

「困るんだよね、幾ら草レースでも、勝手にスキー部を名乗られると」というのだが・・・。

まず、草レースではない。レースポイントを持っていないと出場できない公式戦だ。

(ポイントの無い、貴方には関係ないかも知れないが・・・)

次に俺はスキー部を名乗っていない。

エントリー表にも競技結果にも大学名は入っているが何処にもスキー部とは書いてない。

その前にスキー部からのさそいが無かったのだから仕方ないではないか。


言いたいことは山とあるが、俺も先輩と喧嘩けんかをするつもりはない。

(俺も大人になったものだ)

スキー部に所属しょぞくするつもりが無いとも言っていない。

俺は全てを飲み込んで・・・。

「スキー部とは何処どこにも記入していませんが・・・」

と説明したのだが・・・。


「スキー部に入るなら良いけど・・・勝手にエントリーされたら困るから」

どうやら先輩方は体育会スキー部を差し置いて、サークルでエントリーしたと思い込んだらしい。

俺は勿論もちろん、サークルにも入っていない。

エントリーする条件は個人のポイントで満たしている。

国内のランキングが低いと推薦すいせんが必要だが、個人で基準を満たしている。

個人戦なのでスキー部に所属する必要は無い。

公式戦のエントリー方法も知らない人に説明するのも面倒めんどうである。


「自分はサークルにも入っていません」と一応、その件だけは誤解ごかいをといた。

「じゃあ、スキー部に入れよ!」と言われ・・・高飛車たかびしゃさそい方にカチンときた。

「考えておきます」と反感はんかんを飲み込んで答えたのだが、

「入部できない理由があるのか?」とやけにうるさい。

おまけに「春の合宿に参加しろ」としつこく誘われる。

俺には既に5月の連休はスキー学校でキャンプの手伝バイト先約せんやくがある。

これはうっかり入部手続きをするとヤバイかも知れない。

大学に入る早々、先輩とトラブルを起こす心算つもりはないのだが・・・。


あまり、スッキリしない上級生との出会いだった。

何となくスキー部に接触せっしょくしにくい気分になっていたのだか、

翌日になって、その場に居なかった主将しゅしょうと名乗る先輩から連絡をもらった。

俺は主将に誘われて、授業終了後、生協の教科書売り場で待ち合わせた。


正直、スキー部主将の高橋先輩に会ってほっとした。

高橋と名乗る先輩は流石さすが主将と思わせる風貌ふうぼうで、落ち着きがある人だ。

「僕は付属高校時代の君の活躍かつやくを知っていたから、優勝の話を聞いて喜んでいたんだよ。

まさか、二年生の連中が授業後の教室に押しかけたとは・・・申し訳ない、失礼した」

「いや、別に・・・」

「スキー部としては君のような選手は是非ぜひ確保かくほしたいと監督かんとくとも話しているんだ。

体育会スキー部に所属する方が競技スキーをするためには良いと思うがどうかな?」

「僕もお世話になるつもりで居たのですが、思わぬ方向に話が・・・」

「2年生の非礼ひれいについては、僕からおびする。申し訳なかった。許して欲しい」

俺は上級生に頭を下げられてあせった。

「そんな、やめて下さい。ただ、連休はバイトを入れているので・・・。」

「スキーキャンプかな?」

「はい、お世話になっているコーチの手伝いでジュニアの合宿です」

「そうか、それなら部の合宿は別に気にしなくても良いよ。

春の合宿は一年生のレベルを知るためのものだから、

君のようにランキングに入る選手は関係ない」

「そんな・・・」

「入部を考えてくれないか?」

「はい、よろしくお願いします。」

「入部してくれるの?」

「ええ、その心算つもりでしたから」

「よかった。嬉しいよ。一度、ミーティングに顔を出してくれないか?新歓コンパもある」

「はい、判りました」

高橋先輩は俺に右手を差し出し、俺は握手あくしゅをした。

先輩の手は大きく、暖かく信頼できる人だと感じた。


4月初めから始まった大学生活も二週間すると大分慣れてきた。

授業の時間に合わせたて家を出る時間が変わるのも不自然ではなくなった。

ヒマワリの親父さんは今も現地の工場が思わしくないと帰国できずにいる。

楽しみにしていた、ヒマワリの卒業式も入学式にも帰国ができず残念だったに違いない。

お袋がメールで送った写真を見て、ヒマワリの親父は大喜びだ。

美しくなった娘に感激して電話をしてきた。

ヒマワリも久しぶりに父親と話して嬉しかったらしい。

彼女は俺の家に下宿しているから、当然だが一緒に登校することが多い。


授業に向けて一緒に家を出る俺たちだが、帰りは俺が遅くなる。

相変わらず、フットサルに通っているからだ。

最近はフットサルの無い日は大学のジムでトレーニングも開始した。

ジムのトレーナーに指導を受けながら、筋力強化きんりょくきょうかのトレーニングである。

ジムで汗を流した後は体育館の地下のプールで泳ぐ日もある。


昨日などは、隣のコースを個人メドレーで泳いでいるやつがいたのでついついきそってしまった。

アスリートは競争好きょうそうずき、そして、負けずきらい。

途中から追いつき、何とか先にゴールした俺は・・・。

水泳部のコーチと名乗る人から声をかけられた。

水泳部の勧誘である。しかし、俺は本気で水泳をやる気はない。

今度は水泳部?!と思いつつ、丁重ていちょう辞退じたいさせていただいた。

やはり、俺は体育学部に入った方が良かったのだろうか?


ヒマワリは高校卒業後も相変わらず、デイケア施設しせつ訪問ほうもんを続けている。

最近、施設の柴田所長から大学の授業が無い日にアルバイトの打診だしんがあったらしい。

「どうしよう?」となやむヒマワリに俺はやってみろとすすめたのだが・・・、

内気な彼女は決断ができないのだろうか?

「バイトで自分のやりたい仕事をするって、チャンスじゃない?」

「でも、仕事だと責任が出るし・・・」

「責任がある仕事は嫌なの?」

「そうじゃなくて責任が果たせるのかが不安・・・」

「ヒマワリにできないと思えば柴田さんが勧めるとは思えないけど・・・」

「そうかなぁ・・・」

「そうだよ、やってみれば?将来、そういう関係の仕事をしたいんだろ?」

「ええ・・・」

ヒマワリは少し考えてから「やってみようかな?」と言い出した。

大丈夫だいじょうぶ、柴田さんが助けてくれるよ。僕も応援しているから」

「ウン、頑張ってみる」


ヒマワリは柴田所長と相談して、火曜日にアルバイトでお手伝いすることになった。

ヒマワリの仕事を評価している所長の柴田さんは大喜びだ。

内気なヒマワリが一歩一歩、前向きにトライするようになった。

高校時代を知っている俺には彼女の一歩を踏み出す重みを知っている。

勇気を出してトライするヒマワリはかがやいて見える。


話が決まった途端とたんにヒマワリは介護の資料や病人食の献立本などを読み漁っている。

勉強が嫌いだったヒマワリの高校時代を知っている俺としては・・・。

勉強と思って向うと苦痛だが、自分が知りたくて勉強するのは楽しい。

その楽しさをヒマワリは知ったようだ。

俺も、見つけなくては・・・と少々、あせりを感じる。


授業の履修りしゅうもヒマワリの相談は聞いているが、俺より高い次元じげんで悩むヒマワリにアドバイスはできない。

俺はヒマワリと一緒にデイケア施設の柴田所長に相談した。

柴田さんは学校帰りの俺達と授業カリキュラムをながめながらアドバイスをしてくれた。

ヒマワリはうなずきながら聞いている。

俺は特に目的も無いのでヒマワリに極力合わせて授業を選択した。

・・・勿論、ノートを期待してである。


それにしても大学の教科書は高い。

生協せいきょうで割引があるとはいえ、一冊が千円以上なのだからたまらない。

ヒマワリが購入する教科書を真剣に選んで決めているのは経済的な問題か・・・?

俺は一緒に使える科目や交互に利用できる教科書は一緒に使おうと提案している。

大学の授業科目が決まったら、バイトを始めようと現在、物色中だ。


高橋先輩から連絡を貰って俺はスキー部の新歓しんかんコンパ(新人歓迎会)にでる事にした。

指定された居酒屋いざかや指定時間していじかんピッタリに入る。

勿論、近くで見つからないように時間調整したのだが・・・。

店の奥で高橋先輩が手を上げた。

俺は真っ直ぐに高橋先輩の前に行き、挨拶あいさつした。

俺と高橋主将の会話をさえぎるように2年生の和久井が割り込んだ。

「何だ、お前、入部するのか?」「はあ」

「俺が・・・」と言いかけるのを高橋が割り込む。

「和久井、俺が勧誘かんゆうしたんだ、こいつは!小柳、こっちに座れ!」

俺は高橋先輩のとなりにちゃっかり座り込んだ。


和久井はどうも俺が気に入らないらしい。

「高橋さん、和久井先輩って・・・」

「ああ、自称じしょう、エースだ」

「そうなんですが」

「まぁ、聞いていれば判る」

乾杯かんぱいのあと、一年生が順番に挨拶あいさつする。

自己紹介をすると、先輩から質問がでたりする。

俺は無難ぶなんに「基礎から初めて中学高校では競技を少し」と挨拶あいさつした。

和久井が「一級か?」「いえ、」と答える所を遮られ、

「何だ、お前も、学生の間に一級ぐらい取れよ!」「・・・」

どうも人の話を最後まで聞けない人らしい。

俺が座ると高橋が耳元で囁く

「奴は二級だけどな、ところで一級持ってないのか?」

「いえ、1級は9歳でゲットしました。テクニカルを持ってます」

「それはすごいな、1級は取る奴が多いが、テクニカルは基礎をやらないと難しいだろう」

「いえ、それ程でも・・・」

「それにしても9歳は早いだろ」

「はあ、大学生の合宿で一緒に受けたら合格しちゃって・・・」

「でも、基礎テクニックを理解するのはは子供には難しいのになぁ」

「実は競技に出たいなら1級に合格しないと駄目だと言われて・・・」

「それは面白い、誰に言われた」

「お袋というか、当時のコーチです」

「なるほど、やはり・・・」


酒を飲んで先輩達が出来上がってくると更に面白い。

夫々の先輩達の武勇伝が始まる。

和久井が俺をマークしているのは明らかに態度でわかる。

大きな声で関東大会の話をしている。

「おい、小柳、お前、関東大会にでた事あるか?」

「はぁ、お陰さまで・・・(あなたとは大会でご一緒しています:心の声)」

「公式戦で入賞はあるか?この前のような草試合は入れるなぁ」

「はぁ、6位が最高です」

「なにぃ~!関東大会か?」

「あまりいえ」「俺は関東大会に出たんだぞ」

「凄いですねぇ (関東大会では優勝経験がありますが)」

「いいよ!ほっとけよ!」高橋先輩が俺に声をかけた。

「はあ・・・」

「君はインターハイで6位だよね」

「えっ、ご存知で?」

「当たり前だろ、附属高校は応援するよ!それに君の活躍はスキージャーナルにも載っている」

「ありがとうございます」スキージャーナルに載っているとは知らなかった。

「和久井の出た関東大会でも入賞してたろ、奴はDFだから、深入りするなよ!」

「了解です」俺は高橋先輩の言うことを理解した。

何れ、雪上に出れば判る事だ。


高橋がトイレに立ったのを見計らったように和久井がやってきた。

関東大会を連発した上で、今度は合宿の話になる。まずい!

「小柳、合宿で俺がみっちり見てやる」

「いえ、自分は合宿に参加できないです」

「何ぃ!一年生は全員参加だぞ」

和久井の声が大きくなった所へ高橋が戻った。

「どうした、和久井」

「小柳が合宿に参加しないと言うんで!」

「ああ、俺が許可した」「えっ」

「合宿に出られないから、終わってから入部すると言うんだ」「それは・・・」

「だろう、合宿に出られないから入部できないというのは本末転倒ほんまつてんとうだろ」「はあ」

「だから、許可した。判ったな」「はい」

「小柳、残念だろう、和久井のレッスンが受けられないのは!」

高橋先輩が俺の方を見て、顔をしかめている。

「はい!」今にもつられて笑い出しそうだ。

俺は笑いをかみ締めて、大声で返事をした。



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