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五話




 目がくらむほどの光に包まれる。だが、その感覚は決して悪いものではなくむしろ心地よいともいえた。


 そんなさなかでも魔物のブレスが体に激突し、すさまじいまでの衝撃波が広がる。




 圧倒的なまでの気体の塊。直撃すればいかなる生物をもただの肉塊へと化すであろう必殺の一撃。

 

 魔物も今度こそ仕留めたと確信したかあるかないかわからない鼻を高らかにならす。生きていたとしても五体満足ではいられない――





――はずだった。




 立っていた。それも一切の外傷もなく。魔物にとっても、というか僕自身驚いていた。


 が、驚きはそれだけでは止まらなかった。身に着けていた服装は制服からひらひらとした、けれども動きを害さない薄手のメイド服へと変化していた。


 それだけじゃない。体が全体的に細くなっており、視線も低く感じる。一番の変化は――


 胸を両手でつかむ。跳ね返るほどの柔らかい弾力が手のひらから伝わってくる。


「あの、ナグサ……これ戻るんだよね?」


「……どうやら憑依はうまくいったようじゃな、さっ、さっさとあの魔物を倒そうぞ」


「あの、ナグサさん?」


 頭の中でナグサの腑抜けた声が反響する。


 ナグサが僕の体に憑依するという試みは成功したようだ。ナグサの魂みたいなのが僕の中にある感覚がある。それに俺がメイドの力を手に入れるということも。体中があふれるほどの力で満たされていた。


 が、なぜか女になっていた。いや、男のままメイドになるのはそれはそれでヤバいのはわかるのだが、だからと言って性転換するのは予想外すぎる。


「ほれ、くだらぬ事を考えてないで前を向け」


「うぅ、こんなの予想外する――うっわ!」


 魔物のブレスを飛びのいて躱す。数秒前にいた場所には深いクレーターができていた。


「ブロオオオオオオオオオオオオオオオオオォオオオオオッ!」


 魔物も堪忍袋の限界とばかりに暴れ散らかしている。僕が気絶している間にナグサがなにかしたのか人の姿は見かけないが、それでもこのまま放置すれば町は更地になりかねない。


「とはいっても、戦い方なんかわかんないんだけど」


 これまでケンカとは無縁の人生を歩んできたのだ。今更の話だが暴力の『ぼ』の字すら触れたことのない僕にあの魔物を倒せるのか?


 するとナグサが軽く切り返す。


「そんな心配せんでよい。わしの力を貸しておるのじゃ。余計なこと考えんでも自然と体は動く」


 不安しかないが、ともかくやるしかない。とりあえず、魔物に接近しなくてはと思い、膝を曲げて地面を軽く蹴る。




 瞬間、すさまじい突風が辺りを襲った。




――――




「ちょっとちょっと!とんでもないことになってんじゃない!」


 隣を走るシノンが開口一番、町の壊滅具合を見て大声を挙げる。普段ならそんな騒ぐと魔物が寄ってくるから注意するのだが、今回に関してはメグも彼女と同じ意見だった。


 建物はどこもかしこもがれきと化しており、形を保っている物など存在しない。


ジャイアントレックス。まさかここまで被害を及ぼそうとは。


 奇跡的ともいえるのが人的被害が一切ないことだ。いや、奇跡ではないだろう。ここまで町が壊滅して人がいないのは何らかの働きがないと不可能に近い。けど、いったい誰が?


 すると遠くない場所で地響きが響く。ジャイアントレックスのモノであるのは間違いない。メグとシノンはお互いに目を見開く。


 だが、驚いたのはそれに対してではない。彼女たちは感じ取っていた。


「これは、メイドの?」


 ジャイアントレックスと自分たち以外のメイドが戦っている。それも自分たちとは比べ物にならないような力を持ったメイドが。


 彼女たちはお互いに目を合わせるとすぐさま現場にたどり着くべく、風のように疾走した。


 可憐なメイド服をたなびかせながら。



―――





 一閃、二閃、三閃…………閃光はジャイアントレックスを襲う。


 ジャイアントレックスの体躯は見上げるほど大きく、通常ならミサイルでもなければ傷一つつけられないといった具合だ。が、その表面には狙ってくださいとでもいうように赤黒い眼が蜘蛛の眼のように点在していた。


 ヒット&アウェイの要領でどんどん眼をつぶしていく。ジャイアントレックスも必死に抵抗するも音速を越えたメイドの肉体はかすりすらしない。


(すごい……!)


 これがメイドの力、ナグサの力。


 こんなに強いだなんて。ジャイアントレックスと言う魔物を圧倒している。


「ふふっ、そう言ってもらえるのはありがたいが、大半はおぬしの力じゃよ。初見でここまでメイドの力を操れるやつなど見たこともない」


 嬉しそうにナグサは言う。ナグサにこう言ってもらえるのはうれしいが、やっぱり大半はナグサの力だろう。


 眼球も残り二つといったところでジャイアントレックスに変化がみられる。初手と同じく、大きく吸い込み空気を吸い込む。


 最大火力のブレス。


 予備動作に時間はかかるが、威力は絶大。たとえ躱せたとしても町への被害は無視できないものだ。


「だったら撃たせる前に決めるしかないのう」


 ナグサがにんまりと笑う。


 魔物の巨大な口がカパッと開く。


 それを合図に地面を蹴飛ばす。自身を弾丸と化して、勢い殺さず開かれたジャイアントレックスの口内にそのまま突っ込む。


「これで、フィニッシュッ!」


 頭から口内に突っ込み、そのまま勢いのまま喉奥にぶつかる。肉が軋み、筋がぶちぶちと切れる音が聞こえるとそのまま僕の体は喉を突き破る。魔物の喉奥には外からもはっきり見える風穴が穿たれた。

 

 勢いを殺しきれず腕から着地してしまい鈍い痛みに苦しむ僕の視界には魔物の体が霧散していくのが見えた。


 すると体が光に包まれたと思ったら僕の体はもとに、男の体に戻っていた。それ自体はうれしい限りなのだが――


 「痛っ!」


 鎧を見に纏ったかのように体が重くなり、俺は地面に倒れ伏してしまう。痛みも鋭く骨の内部から悲鳴が上がっているかのようだ。


「まあ、無理した影響じゃな。わしが力を貸したとはいえ、そんないきなり全力でやればこうもなるわな」


ナグサはそういうが、まあ無理しなければどうなるかわからなかったんだしこれでいいのだろう。そもそも必死すぎて力の加減なんかできなかっただろうし。いまだにあんな大きい怪物を倒せたというのが信じられない。


「まっ、はじめてにしてはよくやったと言えよう。頑張ったな、凛」


 ぽんっ、と優しく頭をなでられる。それがなんだか気持ちよくて……


 それ以上に生まれて初めて自分でやり切ったという達成感があった。もちろん、ナグサの力があってのモノだが。


(ちょっとだけ、ちょっとだけでも臆病な自分から変われたのかな?)


 疲労の限界ということもあり、ちょっとした満足感とともに僕の意識はまどろみの中へと消えていった。


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