夏服と鼻歌
GWの終わりからはや2週間。
これといって特質した行事があるわけでもなく、通常の授業を繰り返す毎日だ。
そんな中、毎朝の雨夜さんとの待ち合わせも変わることはなく、2人での登校が当たり前のようになってきている。
初めは慣れるまで、ということで一緒に登校していたが、特に止める理由も見当たらないため、これからもこの時間は続きそうだ。
そんなわけで、今日も今日とて雨夜さんが来るのを待っているのだが……
「…暑い」
そう、暑い。とにかく暑いのだ。
5月も半ばで、だんだんと暖かくなってきているとはいえ、今日の気温は少し異常だ。
実際昨日まではここまで暑いと感じることは無かったし、俺の勘違いということもないだろう。
それに加えて厚めのスラックスにブレザーという冬服仕様、完全に自業自得だが暑いことこの上ない。
今から着替えに戻ろうにも夏服はまだ出していなかったはずだし、ひとまずブレザーだけでも脱いで何とかしのぐしかないか…。
と、そんなことを考えているうちに待ち人が来たようで寮の前で待つ俺に声がかけられた。
「おはようございます!」
「おはよう雨夜さ…ん」
振りむき、雨夜さんの見慣れぬ姿を目にした俺は、ついつい黙り込んでしまう。
「えっと…どうかしました?」
「あぁ、いや、夏服だなと思って」
俺とは違い、夏用の制服を身に纏う雨夜さん。非常に賢い選択だと思う。
「はい、今日は暑いですからね。夏服、どうですか?」
「うーん…涼しそうでいいね?」
清涼感のある半袖のワイシャツに、いつもよりも少し短く素足のよく見えるミニスカート、なんとも涼しそうで羨ましい。
「いえ、そうではなくてですね…」
「ごめんごめん、わかってるって」
見て一番に感じた感想を言ったのだが、雨夜さんの思っていたものとは違ったのかジト目で見られてしまった。
改めてちゃんとした感想を言おうと、もう一度その服装を眺める。
夏服姿の雨夜さんは、半袖のシャツを着ているおかげで見えている白い肌がなんともまぶしく、いつもはストレートに流している艶やかな黒髪も、今日はポニーテールになっていて、これまた可愛らしかった。
着る人が違えば冬服と夏服でここまで変化があるものなのか、というのが正直な感想だ。
「うん。似合ってると思うよ。あと、やっぱり涼しそうでいいね」
「それならよかったです」
「ただ…ひとつだけいい?」
似合っているというのは噓ではないし、それについて何か言いたいことがあるわけではない。
ただ、それはそれとして一つだけ気になることがあったのだ。
「セクハラとかそういうつもりで言うわけじゃないんだけど…スカート、短すぎない?」
雨夜さんの夏服姿を見て一番に目に入るのは、やはり生足の見えるスカートだった。
ほかの女子と比べて圧倒的に短いということは無いが、今までの彼女の姿から考えると少し短すぎるのではないかと心配になってしまう。
「そうですか?一応下には見られても大丈夫なものを履いているのでこのくらいは大丈夫かと思ったんですけど…」
女子は見られて大丈夫なものというが、男目線としてはスカートが短いだけで目が行ってしまうので、その下に何をはいているかはあまり関係ないような気もする。
「だめ、ですかね?」
「ああいや、似合ってないわけじゃないし、本人が大丈夫なら別に大丈夫だよ」
とはいえ、当の本人はあまり気にしていないようなので俺がとやかく言うものでもないだろう。
「それならよかったです。ところで、そういう月島君は、えっと…暑くないんですか?」
俺が雨夜さんを見ていたのとは反対に、雨夜さんは俺の服装に目を落とす。
遠慮した様子で尋ねてきた彼女の表情から、きっと見ている側としても暑く感じてしまうのだろうことが容易に想像できた。
「暑い、暑いよ。今ちょうど自分の服装について後悔してたところだ」
とはいえ後悔したところで今すぐ夏服を用意出来る訳でもなし、天気予報を見る限り気温が異常に高いのは今日だけのようだし、今日1日くらいは我慢するしかない。
「とりあえず、いこうか。今の俺には外は暑すぎる」
「ふふ、そうですね」
直射日光を避けつつ、雨夜さんと2人並んでゆっくりと歩き出す。
最初の頃と比べるとこの穏やかな登校風景にも随分と見慣れたものだ。
この道ももう少しあとの時間になると登校しようとする生徒でごった返すらしいが、幸いなことに俺達は少し早めに待ち合わせしているので、いつもゆっくりと歩くことができている。
「ふんふーん、ふんふふーん」
あまりの暑さにぐったりして溶けかけてる俺に反して、隣からは軽快な鼻唄が聞こえてくる。
理由は分からないが、見る限りかなり機嫌がいいようだ。
「なんの歌?」
雨夜さんがどうして機嫌がいいのか、ということも気になったのだが、俺がそれ以上に気になったのは彼女が唄っているその歌。
俺はそのリズムにどこか既視感を覚えた。
「私の家に伝わる子守唄…ですかね。昔から馴染みのある歌なのでふとした時に口ずさんでしまうんです」
子守唄か…。俺の親が唄ってくれていたのは一般的なものだった覚えがあるし、子守唄として聞いたことがあるわけではなさそうだ。
「雨夜さんの家の人以外に知ってる人はいないの?」
「そう…ですね、もしかしたら知ってる人はいるかもしれないですけど、そんな大したものでもないので広まってるって程ではないと思います」
「そう…」
そうなると、ますます人伝に聞くようなことはなさそうだし俺の思い過ごしなのだろうか…。
「何か気になることでも?」
「いや、うん。多分気のせいだから気にしないで」
色々と気にはなるが、考えてわかることでもない。
似たようなリズムの曲なんて珍しくもないし、きっとそういったものを聞いたことがあったのだろう。
そう自分に言い聞かせてその場では納得しておくことにした。
ちょっとくらいは面白くかけてるかな?
まだまだ拙い文ですが、ブックマークや★マーク等頂けると嬉しいです!