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カラオケと過去のこと

GW最終日、前々から約束していた通り、本日は藍星と二人で出かける予定である。


「よっ!ちゃんと外出届は出してきたか?」


バタバタと足音が聞こえたと思ったのもつかの間、校門の前で待つ俺は後ろから声をかけられた。


「おはよう藍星。そりゃもちろん。当たり前だろ?」


肩にかけられた藍星の腕をどかしながら、呆れたように返事をする。


この学校では敷地外に出るためには外出届を出さなくてはいけないというルールがある。話に聞いた限りでは、外で不祥事が起こった際に素早く処理するための処置らしい。


よっぽどの事がなければ受理されるとわかっているが、それでも少し面倒だと思うのは仕方の無いことだろう。

とはいえ、なまじ色々な設備が揃っているだけあって遊ぶ以外で外出することもあまりなさそうだ、というのが正直な感想だ。


「今日はカラオケ…で、いいんだよな?」


カラオケに行く、ということ以外に本日の予定を特に詳しく聞いていなかった俺は、改めて行く場所の確認する。


「おうよ、飽きたら適当にゲーセンとか行けばいいしな」


GWということもあって混雑していることが予想されるが、それはどこも同じこと。

2人だとできることも限られてくるし気楽にできるカラオケは無難な選択だろう。


「ってことで、とりあえず移動しようぜ」

「了解だ」


***


「で?」


駅前のカラオケ店まで移動してきた俺たちは、さっそく部屋に入っていた。

予想していた通り店内はかなり混んでいたが、藍星はそれを見越していたのかちゃっかり部屋の予約をしていた。


そんなわけで俺たちはカラオケの部屋に入ることができたのだが、少し落ち着いてさあ歌い始めようか、というときになんの脈略もなく藍星がそれだけを発する。


「で…とは?」


藍星の言葉に全く意味がわからず困惑した俺は、呆れ気味に言葉を返した。

藍星が脈絡のないことを言うのはわりといつもの事だが、付き合いが長いからといってそれが理解出来る訳でもないのだ。


「とぼけんなって。最近どうなんだよ、雨夜さん?とは」

「ああ、そういう事か」


藍星の次の言葉で何を言いたいかがようやく理解できた俺は、さらに呆れた声を漏らす。


「どうって…何も無いよ別に」

「はぁ?嘘つけお前、あれだけ仲良さそうにしておいて何も無いとか…逆に心配になるぞ」

「嘘じゃねえよ。ほんとにただ友達ってだけだ」


最近では雨夜さんと2人でいることも多くなって、校内でもそれなりに噂になっているのは知っている。

だがしかし本当に何も無いのだから、何を言われようと期待に応えることは出来ない。


短い付き合いながら友人として好ましくは思っているが、今のところそれ以外の感情を抱いたことも無い。


「…本当に何も?」

「ほんとだって、そういう藍星の方こそどうなんだよ」


藍星からの追求もいい加減鬱陶しく思えてきて、逃げるように話題を変える。


「俺か?」

「確か前に、可愛い子と仲良くなったって自慢してきたよな?」


そう、藍星は少し前に女の子と仲良くなったと報告、もとい自慢をしてきたのだ。

藍星とその女の子は同じ射手座寮であるらしく、そこで知り合って仲良くなったということは聞いていたがそれ以降のことは何も聞かされていない。

話をそらすためとはいえ、経過が気になっているのも嘘では無い。


これまで経験上、藍星はかなりその子のことが好きなのだろうと予想している。

昔から藍星が好きな人の話をする時は、あからさまなにやけ顔になってわかりやすくなるので、まず間違いないだろう。


「おお、その事か!そうだなぁ…連絡先の交換もすんなりできたし、つい一昨日は遊びに誘ったら来てくれたからな。自分で言うのもなんだが、まぁ、かなりいい感じだとは思う」

「……まじか」


自分から聞いてあれなのだが、藍星の経過報告に素直に驚いてしまった。

昔は藍星に好きな人が出来ても、相手が藍星の距離の詰め方に着いていけず上手くいかないことばかりだったのだ。

今回もそのパターンかと思っていたから全く意外な結果である。


まさか藍星のスピード感についていける子がいるとはな…


「それなら、ちゃんと実るように頑張んないとな」


今までの散々な結果を見てきたこともあって、藍星の恋愛がうまくいきそうだということなら素直に応援せずにはいられない。


「おうよ!そういう桜優も頑張れよ」

「俺は違うって言ってるだろアホか」


そうして、カラオケを楽しみながらもくだらない会話に花を咲かせ、笑い合う俺たち。

こうした気安い会話が随分と久しぶりで少し懐かしく思っていた俺は、きっと気が緩んでいたのだろう。


「なんかさ、こういうバカ話をしてると昔に戻ったみたいな錯覚を覚えるよ」

「昔、ね…なあ桜優、今日二人で遊ぼうって誘ったのは、ただただ遊びたかったってだけじゃないんだ」


これまで藍星相手には避けていたはずの話題を、あろうことか自分から振ってしまったのだ。

しくじった、と思っても時すでに遅く、それまで楽しそうに笑っていた藍星の顔が途端に真剣な顔へと変わる。

そして今日の本当の目的だっただろうことをポツポツと話し始めた。


「今日は…さ、あの時のことを話したくて桜優を呼んだんだよ」


藍星の口から語られたのは、俺が藍星との関りを断つ決定的な原因となった出来事のことだった。


「俺さ、勘違いしてたんだ。お前があの時俺たちを裏切ったから俺らは惨めで辛い思いをしたって思ってた。けどさ、あの時本当に辛い思いをしてたのは桜優なんだよな」

「それなのに俺たちはお前のことだけを責めて、追い込んで…本当に裏切り行為をしていたのは俺たちの方だったんだ」


藍星の言葉に何も言えず耳を傾けていた俺は静かに驚いていた。

俺は何も言わずに立ち去ったというのに、まさかそこまで知られているとは思ってもいなかったからだ。


「……」

「だから、悪かった!許して貰おうとは思ってない。でももし、もし桜優があの頃のことを懐かしく思っているなら、もう一度初めから、仲良くなるところから始めさせてくれないかな」


予想していなかったと言えば嘘になる。二人で遊ぶと言われた時から何となくあの時の話をされるんじゃないかとは思っていた。

だが、話の内容は予想していたこととは少し違って、俺は藍星の言葉にしばらく何も言えないようになってしまった。


どれだけの間黙っていたかは分からないが、その間藍星はずっと頭を下げていて、ようやく口が動くようになった俺はそんな藍星に長い沈黙を破るように声をかけた。


「……いいよ。あの時のことはもう気にしてないからさ、こっちこそこれから仲良くしてくれると嬉しい」

「ほんとか!?」

「本当に決まってるだろ。っと悪い、こんなタイミングだけどちょっとトイレ行ってくるわ」


藍星に一言断りを入れた俺は、できるだけ顔を見られないようにしながらその場を離れた。


***


「……はは、()()()()()


逃げるようにトイレに入った俺は鏡で自分の顔を見てそう声を漏らす。

改めて見た俺の顔は、笑顔のくせにどこにも笑っているような雰囲気はなくて、なんとも言い難い気持ちの悪い顔をしている。


恐らく藍星には見られていないが、見られていたとしたらきっと俺の考えていることは全てバレていることだろう。


頭を下げ続ける藍星に対して俺が発した言葉。俺の口から漏れたその言葉は、紛うことなき偽りの心…つまるところ、真っ赤な嘘であった。


まだまだ拙い文ですが、ブックマークや★マーク等頂けると嬉しいです!

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