ゴールデンウィークと桜優‘sキッチン
「……暇」
暇だ。非常に暇だ。
本日はゴールデンウィーク初日、普段の休日ならどれほど暇でもそれを嘆くことは無いのだが、ゴールデンウィークというだけで暇なことがこれほどもったいないと感じるとは思はなかった。
一応クラスの男子何人かで遊びに出かけたり藍星とカラオケに行く予定はあるのだが、それは数日後のことである。
もちろんゴールデンウィーク中すべてに予定を入れているような人望はないので、何もない日はどうにかして暇をつぶさないといけないのだ。
「うーん、少し時間は早いけど…あれ、やるか」
***
やることを決めた俺は善は急げと準備をして部屋を出た。
向かう先は、キッチンである。
キッチンといっても食堂用のものではなく、学生向けに貸し出しがされている個室のキッチンだ。
自分で作ったものを食べたいという学生がいるかもしれないということで、各寮に一部屋は用意されているとのことだ。
俺もまだ入ったことは無いのだが、何を作るにも困らないくらいには料理道具が揃っていると聞いて内心かなり楽しみにしている。
さて、そんなところに行って何をするのかといえば、もちろん料理である。
よく意外だと言われるが、料理は昔からよくやっていて俺にとっては趣味と言っても過言ではない。
寮の食事ももちろんおいしいのだが、そんな趣味を持っている俺にとっては、たまには自分で作ったものを食べたいといと思ってしまうのは、もはや仕方のないことだろう。
あとは単純に料理の腕をなまらせないため、というのが今回料理をしようとした理由だ。
「…あれ、雨夜さん?」
そうしてキッチンまで来たところで部屋の前にいる雨夜さんを見つける。
雨夜さんは扉のほうを向いていて、今から俺が入ろうとしているキッチンを覗いていたようだった。
「っ!月島君…びっくりした…どうしていつも後ろから声をかけてくるんです」
俺が声をかけた途端ビクッと肩をはねさせて、こちらに振り向く。
言われて思い出したが、確かにこの前中庭で会った時も、後ろから声をかけて雨夜さんを驚かせた覚えがある。
「俺としては、わざと後ろから声をかけているわけじゃないんだけど…えと、ごめん?」
「まあいいですけど…それ結構心臓に悪いんですからね」
俺としては、本当にわざとやっているわけではないので怒られてもどうしようもないのだが、自分でも後ろから声をかけられたら驚くだろうし、こればかりは仕方ない。
頬を膨らませて拗ねたような態度をとる雨夜さん。その姿に関しては申しわけないことに可愛らしいとしか思えないのだが、こういうところを見ると、1ヶ月程でだいぶ打ち解けたなとは思う。
最初はもう少し遠慮のある話し方だったが、最近ではちょっとした冗談も言ってくれるようになったのだ。
「それはそれとして、キッチンを覗いてたみたいだけど…どうした?」
「いえ、何かあるわけではないんですが、私この寮のことまだあまり知らないので、いろいろと見て回ってたんです。ここはキッチン…ですかね?」
「うん。ここは学生用のキッチンだな」
「学生用の…ですか」
学生用のもの、というのがいまいち理解できていない様子をみて、このキッチンがどういうものなのか説明をする。
「なるほど、そういうのもあるんですね」
「そうだ、今からこの部屋使うんだけど、気になるのなら一緒に入ってみる?」
「いいんですか?」
「もちろん」
特に断る理由もないし、俺以外の人がいるのなら少し考えていることもあるし、俺としてはむしろ大歓迎だ。
「それじゃあ、お言葉に甘えます」
そうして雨夜さんを誘った俺は、扉を開けて二人で中に入る。
「……おお」
部屋の中を見て思わず声を漏らしてしまう。
俺も初めて入ったわけだが、ここまでおしゃれな部屋だとは思っていなかったからだ。
キッチンというよりはレンタルスペースといったほうが正しいだろうか。
置かれている家具の配色にも気をつかっているだろうことが見ただけでもよくわかる。
棚の中を見てみるとホットプレートやたこ焼き機のようなものまであり、大き目のダイニングテーブルも置かれているので軽いホームーパティのようなこともやろうと思えば出来そうだ。
キッチン自体はカウンターキッチンとなっていて、コンロは火事などを避けるためかIHが採用されているようだ。
キッチン側の壁にはフライパンやヘラなどの様々な道具が掛けられていて中には用途のよく分からないようなものもある。
これだけいろいろなものがそろっているなら、何を作るにも困らないという話もうなずける。
「そういえば、今更ですが月島君はここに何をしに?」
俺が部屋の凄さに感動していると雨夜さんが質問をなげかけてくる。
いかんいかん、驚きのあまり雨夜さんのことすっかり放ったらかしにしてしまっていた。
「それはもちろん料理をしに来たんだ」
「料理…月島君が、ですか?」
「おう、信じられないかもしれないけど、その月島君が料理をする」
その発言に特に不快に思った訳でもないが、ちょっとした悪戯心からおどけたような口調で答えてみせる。
「信じられないというよりは、意外…ですね」
「よく言われる。あ、そうだ雨夜さん、昼食ってまだだよね?」
雨夜さんを誘った時から考えていたことがあってそんな質問をする。
「…?はい、まだですけど」
雨夜さんは俺の質問の意図が分からないようで、小首を傾げながらも返事をする。
時間的にまだだろうと思いながら聞いたのだが、それが当たっていたようでよかった。
「それならもし良ければ一緒に食べないか?」
「一緒に、ですか…?」
「ああ、俺の作ったもので良ければだけど」
ここ最近は人と食事をすることが多かったからか、一人で食べるというのがどこか味気なく感じる。
雨夜さんが一緒に食事をしてくれるならそんな味気なさも無くなるだろうし、自分の手料理を人に食べてもらうという貴重な体験をすることも出来る。
実際前々から自分の料理を人にふるまいたいという願望はあったので、俺にとっては一石二鳥の提案だ。
「興味はありますけど、ほんとにいいんですか?」
「もちろん、俺にもいろいろとメリットのあることだからな」
「そういうことなら…ぜひお願いします」
もしかしたら俺の作った料理を食べるのは抵抗があるかな、とも思ったがその心配はないようだ。
雨夜さんに昼食をふるまうことが決まり、さっそく俺は調理にとりかかる。
といってもそこまで凝ったものを作るわけではないし、作業量も大したことは無い。
「ところで、何を作るんですか?」
「久々の料理だし、手順自体は簡単なオムライスを作ろうかと」
今言った通りオムライスは手順自体は簡単だ。しかし、いざ作るとなると火加減などが意外と難しい。
それに加え、今回は普通のオムライスとは少し違うものを作るので難易度はさらに上がる。久々の料理の小手調べとしてはちょうどいい料理だ。
「そうだ、卵は半熟でも大丈夫?」
「半熟好きなので問題ないです」
「うん、了解」
話しながらも大体の調理の下準備を終え、最後に一番大事な卵の工程に入る。
ここからが今回作るオムライスの特殊なところだ。
普通のオムライスならあとは卵でチキンライスを包むだけなのだが、今回はそうではない。
今回はチキンライスはあらかじめ皿に盛り付けておき卵は上からかぶせる形になる。
ただ、そのまま乗せるだけではないのがポイントになるのだ。
卵をフライパンの上に流し、周りが固まってきたタイミングで菜箸を卵の端に入れ込み中央まで寄せていく。
そうして真ん中まで来た菜箸を固定したまま、フライパンのほうを時計回りに回していった。
最後に形を崩さないように卵の上に乗せれば完成だ。
「はい、できあがり」
自分と雨夜さん、2人分のオムライスを作り終え、盛り付けしたものをテーブルの上に置く。
「おお…これ、普通のオムライスとは違いますね」
「ああ、これはドレスドオムライスっていって卵の部分がドレスのようになっているのが特徴なんだ。味は変わらないけどね」
「なるほど、こんなものもあるんですね」
雨夜さんはその存在自体知らなかったのか、俺の作ったものをまじまじと観察していた。
そこまで完璧にできた訳では無いので、そんなしっかり見られると若干恥ずかしい。
「ささ、食べよ食べよ」
「あ、そうですね、それではいただきます」
「いただきます」
しっかりと食材に感謝を伝えスプーンを手に取る。
最初は自分は食べずに雨夜さんの反応を見ることにした。
「はむ……っ!月島君これ、すごくおいしいです!!卵の硬さもいい感じで完璧です」
「そう?お口にあったようでよかった」
正直オムライスなら誰が作ってもあまり変わらないのでは、と思わなくもないが、喜んでくれているようだし気にしないようにしよう。
「それじゃあ俺も、…はむ……うん、いい感じかな」
卵の焼き加減にムラはないし味もしっかりしている。
米は時短のためにパックのご飯を使ったが、それで味が変わるようなこともなかったしまあまあいい出来だ。
久々でも腕が鈍っていないようで安心した。
***
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様」
先に食べ終わり料理の後片付けをしていると、雨夜さんが食べ終わった皿を持ってきてくれる。
「ありがとうございました月島君。とってもおいしかったです!」
「どういたしまして、って言いたいところだけど、完全に俺がやりたいことをやっただけだしお礼は必要ないよ」
むしろ一緒に食べてくれて、おいしいって言ってくれて俺のほうがお礼を言いたいくらいだ。
「あ、そうだ。俺定期的にこうやって何か作って食べると思うからさ、もしよかったらこれからも付き合あってくれると嬉しい」
「もちろんです!ただ、今日は見ていただけでしたけど、次からは少しくらいお手伝いさせてくださいね。ただ作ってもらっているだけだと申し訳なくなってしまうので」
「俺は助かるし雨夜さんがいいっていうなら、わかった」
確かに俺が同じ立場だったとしても申し訳なく思うだろうし、料理をしてもらっている間は手持ち無沙汰になってしまうだろう。俺としては助かるだけだから手伝ってもらうのは何の問題もない。
「さて、片付けも終わったし俺は部屋に戻ろうかな。それじゃあまたね」
「はい、また」
そうして食事を終えた俺たちはほかに何をするでもなく、挨拶をして自分たちの部屋に戻るのだった。
まだまだ拙い文ですが、ブックマークや★マーク等頂けると嬉しいです!




