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お昼寝と出会い

入学式から数日経ったある日の昼休みの事。

俺は学園敷地内に無数に設置されているベンチでのんびりくつろいでいた。

理由は単純、天気が良くて気持ちがいいからだ。雲ひとつない青空にぽかぽかと暖かい気温、その上爽やかな風が吹いているとあれば、室内にこもっているのは勿体ない。


つまるところ、俺のやっていることは日向ぼっこだった。


「ふわぁ〜、はふ」


何も考えずぼーっとくつろいでいると、急激な眠気に襲われて大きく欠伸をする。食後に暖かいところにいると眠くなってしまうのは仕方の無いことだ。


そろそろ教室に戻ろうかと考えていたところなのだが、どうにも動く気が起きない。


「あー、これは無理だな…」


眠気を感じ始めて、これまでの経験上それが()()()()()()()()()()()だと悟った俺は、ベンチの上に仰向けに寝転がり抵抗することなく意識を手放した。


***


「……」


ふと目が覚めて、瞬きをする。どれくらい寝ていたかは分からないが、いつも通りなら十数分と言ったところだろうか。


相変わらず気持ちのいい風が吹いていて、このまま動かなければまた眠りに落ちてしまいそうだ。


「あ、起きた。おはよ!」


脳が働かずぼーっとしていたところに、聞き馴染みのない声が耳に入る。

声の主に意識を向けると、俺の寝転がってるベンチのそばでしゃがんで、ついでに俺の頬を指でつついている女の子がいた。


「おはよう…?」


寝起きで脳が働いていないこともあってか状況がよく理解できなかった俺は、ひとまず彼女の言葉に返事をするようにそう言った。


寝そべっている状態はとても話をするような姿勢ではないと思い、その子と対面するように座り直し、固まった体を解すように伸びをする。


正面にしゃがむ彼女を改めて見てみるが、その女の子には見覚えがない。

髪はかなり明るめの茶髪で、それだけでも1度見ればそうそう忘れそうにないから間違いないだろう。


「それで…どちら様で?」


結局1人で考えていてもわからないものはわからないので、思考を放棄して素直に聞いてみることにした。


「私?私は若葉朝陽(わかばあさひ)、1年だよ。君は月島君…だよね?」


俺は彼女――若葉さんのことを知らなかったのだが、彼女はどうやら俺のことを知っているようだ。名前を知られているとは思っていなかった俺はそのことに驚いてしまった。


「え、うん。そうだけど…よく知ってるね」

「まぁ、君のことは噂になってたからねー」

「噂……?」

「そうそう、入学早々彼女作ってイチャイチャしてる一年生がいるっていう噂があるんだけど…知らない?」

「ああ…」


そういえば藍星もそんなことを言っていた気がするけど、まさかそこまで広まっているものだとは思わなかった。

たった数日一緒にいることが多かったというだけでそんな噂が出回るとは、学生社会は怖いものだ。


「まあいいや、改めて言う必要もないかもしれないけど月島桜優だ、よろしく若葉さん」

「うん、よろしく。あ、私のことは朝陽でいいからね」

「そう?それなら朝陽って呼ばせてもらうよ。俺のことも適当に呼んでくれていいから」


普段なら初対面の相手に対して名前で呼ぶことはあっても呼び捨てすることは無いのだけど、不思議とこの人相手にはそれでいい気がした。


なんだろうな、このどことなく感じる既視感は…


「お、おお…いきなり呼び捨てとは…強いね君」


朝陽は俺の呼び方に若干面食らっているようだけど、特に嫌がっている様子もないし、なによりしっくり来ているので、このまま呼び方を変えるつもりは無い。


「んで、朝陽はここでなにを?」

「あぁ…いや、うん。何かしてたって訳でもないんだけど、無防備に寝てる人がいたからちょっと気になって」

「なるほど…?」


確かにこんなところで無防備に寝てる人がいたら俺も気になるし、心配もする気がする。朝陽が俺を見ていたのもそういうことなのかもしれない。

とはいえ、その程度でちょっかいかけてくるような人もなかなかいないだろうけど。


「んで、桜優…はなんか違うからサク君。うん、これで行こう。サク君はなんでこんなところで寝てたの?」


サク…サクかぁ。


名前の上二文字というなんとも安直なニックネームだけど、何気に今まで呼ばれることのなかった名前で新鮮だ。


それはそれとして、どうして寝てたか、ね。


「なんでって言われても、眠かったから…かな?」


本当はただ眠かっただけってわけでもないのだけど、今日初めて会った相手にすべて話すには、かなりの抵抗がある。

普通だったら人が眠ることに理由なんてないのだから、こんな単純な理由でも問題あるまい。


「それだけ?」

「うん、それだけ。これからもこんな風に寝てることがあるかもしれないけど、そういう時は気にせずほっといていいから」

「ふーん…ま、いいけど」


どこか納得していないような朝陽だけど、こちらが話したくないのを察してか、それ以上は聞かないでおいてくれるようだ。


キーンコーンカーンコーン


そうして話していると昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響く。


「おっと、もう戻らなきゃ授業が始まっちゃうね」


予冷が鳴ったということは、あと五分で昼休みは終わりだ。走って戻らなきゃいけないほどではないけど、急ぐに越したことは無い。


「そうだな、一緒に戻るか?」

「うーん、私飲み物買ってから戻るから先に行ってくれていいよ」

「そうか?それならまあ、またどこかで」

「ういうい、またね」


そうして俺に別れを告げた朝陽は、ぱたぱたと自販機の方へと走り去っていった。


こんなに人の多い学校でクラスも知らないような相手だけど、朝陽とは不思議とまたどこかで会う気がする。


「っと、俺も戻らないと」


朝陽が去っていった方をぼーっと見ていた俺は、校舎の方へと向き直して教室へと戻るのだった。


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