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第11話 これで物語を創りたい

「は!」

 清二が目を開けると、そこはいつもの自分の部屋だった。

「そうか、目が覚めたから……」

起床、つまりそれは睡眠により夢を見る時間が終わったということだ。

頭がぼんやりとして、まだ夢の中にいるような気分で先ほどの風景も目で残っている感じがした。

それでも、目が覚めたことで清二は自分の世界に戻ってきたのである。

「今、何時……」

寝ぼけた頭で枕元のスマートフォンを見てみると、時刻はすでに正午になっていた。

どうやら翌日が日曜日なのをいいことに、昨夜は目覚まし時計をセットし忘れていたようだ。

眠っている時間が長かった分、いつもより長く夢の中にいたというわけだ。

「なんだか重要なことが聞けそうだったんだけどなあ」

もう少し、ユートアスラントとあのシェルターについて知りたい、と思ったところでの歯切れの悪い目覚めに、少々不満だった。

せめてあと少しだけ眠る時間が長ければ、何かもっと知れたのかもしれないと。

「そうだ、夢日記つけとかなきゃ」

 夢の中で見た出来事を忘れない為に、清二はすぐさま夢日記用のノートに書きこむことにした。

 夢の中に長くいた分、今回は書くことが多かった

「かなりいろんな情報を得ることができたな」

 少女の名前から、シェルターの内部、案内された場所もできるかぎり覚えてることは文字で書き、シェルターの中で見た風景もなるべく絵にして描いておく。

あのシェルターの中の生活様式などを知ったことで、より世界観のリアリティは出せるようになったかもしれない。

 

 日曜日ということは、今日一日かけてあの世界の考察ができる。

もしかして、あの世界を舞台に、新しい小説のストーリーが思いつくかもしれない、とパソコンを付け、夢日記の内容をテキストファイルに記載する。

 人々が行き来していた、大勢の人の食料をまかなえるプラントや貯蔵庫があった、住民は人柄がいい、生活に必要な施設は一通りそろっているなどだ。

 この世界観を使えば、新しい小説が書けそうな気がする。

 この内容で、物語を考えればいいだけの話だ。

 しかし、清二はふと考えた。

「あれってあくまでも夢の中……なんだよな?」

 もしかして、あの世界がちゃんとあの世界線で存在している的なものなのではないのかと思えた。

 ただの清二の夢の中にしては、随分とリアリティのある世界観だった気がする。

 もしかして、この世ではないが本当にあの世界があるのでは、とすら思える

「それを勝手に僕が自分の作る話として利用していいのかな」

 あの世界はあくまでも夢の中だけ、とわかってはいても、まるで自分があの世界を好きに自分の都合よく利用してしまっているような罪悪感もあった。

「何考えてるんだろう、元は僕が作った世界なのかもしれないのに」

 しかしあの世界もまた清二が昔作ろうとしていた小説の内容が夢に出てきただけのものだ。

「でも、なんで僕が作ったかもしれない設定があんなにリアルな風景で見れるんだろう?」

 しかし、それはいくら考えてもあくまでも夢の中の世界であり、実在しない世界についてそこまで考える意味もない、と判断した。

「きっと、僕がこんな世界を創ったらこんな場所になりそう、ってイメージしているのがそのまま現れたんだろうな」

 と、そう思うことにして、

「でも、ここからどうやってこの設定から新しい小説を書くんだ? どんなストーリーにする?」

 世界の設定と、その風景を見たからといって、すぐに物語が浮かぶわけではない。

 設定はあくまでもその土台になるだけで、建築そのものにはなっていないのだ。そこから話を作るとなれば、それはまた難しいことなのである。

「うーん……」

 清二は頭をうならせた。

 あの世界のものを、なんとか自分の小説に使えないかと。

「じゃあ、あのシェルターの中で起こる事件とか? それともあの住民達が地上に出て行って旅をする話とか? もしくは外から誰かが来て、一緒に暮らす話とか?」

 あれこれとあの世界観にあう話を考えてみようと、するがいくら考えても、そこから話を膨らませるなんて無理だ、と。

「ま、まさかあの子と主人公が恋仲になるとか」

 それはある意味、清二の願望だった。

 その主人公とは、自分のことで、ユミラはまさに自分の理想なタイプの少女だ、初めて見た時からそんな感情を持ってしまってもいた。

 それを小説という形で作品にするのはどうかと。

「何考えてるんだ! ダメだダメだ!」

 小説とは作者の願望や理想をストーリーとして形にすることができるので、そういった話に膨らませることも可能だが、清二はさすがに主人公を自分のことにあてはめるというのは恥ずかしいという感情もあった。


結局一日考えても、話は思い浮かばなかった。

「くっそ、貴重な日曜日を潰してしまった!」

 清二は今日一日、結局話を思い浮かばなかったことに、時間を無駄にしてしまったかのような気にもなってしまった。

 こんなことならば他の本を読む、もしくはネットにアップロードされている他者の小説を読んで勉強するなど、有意義に使いたかったと。


 明日は学校だ、今日は早く寝なければならない。

「もう仕方ない、明日の為に、今日は早く寝よう」

 清二はやることを済ませて布団に入った。

「また、あの世界に行けないかな」

 あの世界をもっと見たい、そうすればより取材となって創作として役に立つかもしれない。

 そう考えると、まだあの世界で何か経験をしたいと思った。そうそう自分に都合よく話を作れるような刺激になるかはわからないけど。

「もうどうにもならないや、おやすみ」

 清二は目を閉じた。



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