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追放魔法戦士と風の庭  作者: 大石次郎


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6/7

「告訴状か?」


「違う。前のパーティーで粗相をしたヤツがいてな。大嫌いだが、前のリーダーに促され、獄中から寄越したらしい。ふん」


読んでみる。酷い癖字、誤字脱字。うんざりした。文章だけで、ここまで嫌いだという認識を再現させる我の強さ!


「いい話じゃなさそうだな」


「概要は・・私個人に謝罪はしない等、自己弁護や話しのすり替え、責任転嫁、取り留めもない話題、よく知らない着ぐるみ? の踊り子への賞賛。解読が難しいな。まぁ、逮捕はされている。本人からも報せが入っただけマシ、と、評価してやろう」


私は便箋を封筒にしまった。やはり嫌いだ。しょうがないヤツだ。ドゥテに言わないが、私の物言いへの非難も少なくなかった。

舌打ちしたいところだが、メープルシロップココアで飲み下した。甘過ぎるっ。



早朝、鎧までは着込まないが身支度を整えた私は素振りでもしようとニャッハの家の裏手の薪割り場の辺りまでゆこうとすると、林道の方の朝焼けの暗がりから、ヌッとモリオ3号が現れた。


「オハヨウ、あずむ」


「知っていなければ狂ったように先制攻撃を仕掛けているところだ」


「狂ッタヨウニハ大袈裟ダ。落チ着ケ。我ハ特ニ活動範囲ノ制限ハ無イ。家ガ落オチ着イタカラわりト自由ナノダ」


「安易に街中を1人で出歩くことは推奨しない」


「同意スル。賢明ダ」


相手も暇そうなので、そのまま2人で薪割り場に行くと、ドゥテが何かの獣に噛まれたらしい兎の死骸を前にしゃがんでいた。


「取ってきたのか?」


「寝起キニ活発ダナ」


「何で2人だ? あとわたしは蘇生師! 死の気配に敏感なんだ。そこに繁みで力尽きてた。ニャッハさんの家の周りには魔除けや害意の有る者は近付けないから、狩り損なった獣か魔物は退散したんだと思う」


ドゥテは昨日を見るような顔で兎の死骸を見ていたが、それはニャッハのような歴史や責務を直感するような物ではなく、もっと個人的な物だった。


「まだ新しい。蘇生させないのか? 今のもわざと言ったが、悪気ではない。蘇生術の適性は特殊だ。2級の僧侶でも使えない者は使えない。信仰心すら問題ではない。私が思うに生命は現象なのだろう。ニャッハの言う所の、摂理、というヤツだ。君は君の才能を牧場や辛気臭い薬師の庭に埋める作業をしているようだ」


ドゥテはそのまま長く黙っていた。


季節が雨季前のちょうどいい頃でなければ、先日、嫌いなメンバーが手紙を寄越していなかったら、私は待てずに立ち去るか、また余計なことを言っていただろうが、私はただ短尺長巻を持って立っていた。

モリオ3号は「薪デモ割ルカ」と高速で薪を割り出していたが・・


「冒険者は、初級者でも素人じゃないだろ? まして、風の牙ダンジョンへの突入は4級以上って規定がある」


「4級では話にならないがな」


「小遣イ稼ギクライナラデキルダロウ?」


「まぁな。でも皆鍛えてるし、なんだかんだでお金や、蘇生の助けになる魔法道具とか素材を持ってくるし、ギルドでも保証するだろ?」


「ああ」


「昔ノ冒険者ぎるどハモット酷薄ダッタゾ?」


やたら死ぬヤツはしまいに破産するし、効率が悪いからダンジョン出禁にはなる。


「嘘みたいに簡単に蘇生できるんだ。蘇生所に2年勤めて、凄い、稼げた。生まれは貧乏だったし、この才能のせいで気味悪がられて・・上手く蘇生師ギルドに拾ってもらったが」


よくある話で、蘇生師の才能がある者が死霊使い(ネクロマンサー)になって悪事を働くことになりがちな理由でもあった。


「いい気になっていたんだ。だから、ギルドで、蘇生ボランティアの募集があった時、安易に手を挙げた。無料蘇生権の割り振りは、政治なんだよ。ギルドの調整で、何てことない田舎の郷に派遣されたらっ」


ドゥテはしゃがんだまま震えだした。


「取り敢えず、冷やすか凍らせておけばいい、っていう雑な管理の、寿命や、重病や重要身体の部位が足りない人も多い、脆弱な、死骸ばかりっ。魔法道具も、素材も蘇生の補助設備も、ロクに、無い!」


ボランティア蘇生に挙手の辺りで想像はついてはいたが。


「ポロポロ、ポロポロ失敗してゆくんだよ・・次々灰化(アッシュ)して消失(ロスト)してっ。蘇生できても上手く元通りに治らない。それでも2割くらいは上手く生き返らせたんだけどね。8割殺したら、もう・・インチキ呪い師扱い! ギルドの竜車(りゅうしゃ)に乗って、石を投げられて郷から逃げたんだ」


兎の死骸を前に、ドゥテは自分の両手を見て震えている。


「わたしは、リザレクションが怖くなった。よく考えたらオカシイだろ? 死んだ人が生き返るなんてっ」


「我ハ生キ物カ怪シイガ特ニ気ニシテナイゼ?」


「・・風の牙ダンジョンは、比較的死霊の類いが発生しやすい。マナの籠った風が吹き続けているからだと言われている。ヤツらは生き返ってるワケではないが、死を越えている。そのような所で探索する。ドゥテ。死を越えることが日常の世界もある。それだけのことで、それ以上の意味は無い。あるいはプロの画家には世界が違って見えているらしい。音楽家も違って聴こえるんだろう。だが、どうだ? 当たり前に、そこらにいるだろう? 自分や自分の力を特別に考え過ぎじゃないか? 少なくとも私は、自分が商人ギルドではやっていけないと自覚している。明らかに、客や、金より私の方が身分が高いからな」


ドゥテは呆気に取られていたが、


「・・ぷっ。あはははっ! 途中で話変わり過ぎだ。わたしのリザレクションとあんたの謎の身分、関係あったか?」


大笑いされた。上手く纏まらなかったか。むぅっ、


「とにかく、兎に虫が集りだしている! 蘇生させるか埋めるか焼いて食べるかハッキリしろっ。イライラするっ!」


「別ニ放ッテオケバイインジャナイカ? 虫ガ食事中ダ」


「お前はいちいちズレてるから少し黙っておくといいっ」


「了解シタ」


「はいはい、じゃあ・・生命の火よっ!!」


ドゥテは虫を払い、ポーション1瓶の3分の1を対価にリザレクションを発動させ、兎を蘇生させた。


兎は耳を立て、状況を把握すると、慌てて、駆け出し、繁みの手間で振り返って、不思議そうにドゥテを見ると、またすぐに繁みに飛び込み、自然に帰っていった。



谷への風吹く洞窟の手入れの手順は作業自体は風の庭のある家より単純だ。

代替わりが滞って内部が荒れると必ず現れる数種の魔物を、調合した魔法薬で片付けつつ洞窟の制御器を順に直してゆく。それだけ。


これも事前に調合したマテリアルポーション+1を使えば錬金術(れんきんじゅつ)の専門家ではないニャッハでも問題無いらしい。庭や家の補修の時点で+評価の無いマテリアルポーションを活用していた。

随分イージーだが曰く、


「何百年分の研鑽の成果で、しかし、この作業別に調合したマテリアルポーションはここの補修以外では使えないからね?」


とのことだ。


「わたしはリザレクションのコンプレックスを克服した! 皆っ、安心して死んでくれっ」


地下へのトンネルに入る前に勢いづくドゥテ。


「嫌だが?」


「使ワナイニ越シコトハナイ」


「死ぬ前にフォローしようね」


「・・ですね」


図に乗ったドゥテが空回りつつ、私達は最後の仕事に向かった。

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