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フェアリーガーデン家に戻り、風呂を済ませ、やはり田舎風の夕飯を馳走になり、昼間は町の治療院で働いているらしいニャッハの妻や子供2人(兄か姉の方がルッハ)と、午後8時過ぎまではいたドワーフの家政婦等に冒険者活動の話を聞かせた。
夜中になるとブランデーを落とした紅茶を飲みながら、アトリエでニャッハと明日の打ち合わせになった。
広げた資料によれば庭の魔法ハーブは中々手強い。そして地下洞窟は案外入り組んではなかったが距離があり、確かに風の牙ダンジョンに繋がっていた。
「ダンジョンと繋がっているというのはガセじゃなかったか」
「残念ながらね。この通路になってる洞窟が一番問題なんだ。私の家でしっかり管理しないと、このダンジョン化した洞窟は拡大してしまう。ラメントの町の下を貫通しているからね。相当な混乱になる」
「ふん・・いっそ管理は町に任せたらどうだ? 危ない橋を渡っているようだ」
「本格的に失敗した場合はそういう手筈にはなってるよ。ただ、可能な限り続けたい。洞窟の手入れが最後まで済んだら、その辺りの詳しいことは話そう」
「それでクエスト進行に支障はないのか? 何か不都合な点があるのか?」
「支障自体は無い。不都合も無いよ。ただ、そうだね。わかり易いだろうからさ」
ニャッハはそれ以上はハッキリとしたことは答えなかった。
知っている。ここは、敢えて聞かない、というヤツだ。前のパーティーのリーダーに20回から22回くらい注意されたからな。学習している! ここだなっ、ふふん。
掃除もだが、そこかしこと壊れた状態に戻ろうとする家の補修に手間取り、庭の手入れに取り掛かれたのはそれから4日目の午後だった。
間接的にあれだけ妨害したのに家や周囲の土塀の補修と掃除が済むと、精霊3体は上機嫌で、シルフは屋根の上で歌いだし、ブラウニーは土塀の中を動き回ってチラチラ様子を見てくるようになり、ドリアードは荒れた庭をウロウロしだした。
総じて、邪魔。
「庭は、暴れてる魔法ハーブをどうにかしないと、わたくしとドゥテ君は立ち入れもしない。魔法で支援はするが処理はアズム君とモリオ3号に任すよ」
「合点承知デス!」
「菜園に植えられた魔法ハーブと戦うのは初めてだ。自作自演のようでもある」
「リザレクションは期待するな! 人は、死ぬ時は死ぬっっ」
目が据わってるな、ドゥテ。
それはそれとして、ニャッハに防御魔法をドゥテに対毒魔法を掛けてもらい、私とモリオ3号荒れ放題に踏み込んだ。
「君、ゴーレムだからアンチポイズンは必要無かったんじゃないか?」
「我ハ木製ダ。必要」
「あ、そう」
荒れ放題の庭で暴れている魔法ハーブは3種。1種目は・・
「シャアァーーッッ!!!」
青蓬・変異体だ。青蓬はポーションの基本原料の1つでマナの籠った蓬。これが変異して魔物化していた。
牙状の口から出てるガスを発生させる粘液は毒の効果がある。
野外やダンジョンでは毒と足元に急にいることを注意していれば大した相手ではないが、通常より数倍大きく、ちょっとした熊くらいの大きさだった。
「冷気付与魔法」
私の得物、短尺長巻に冷気を付与する。燃やした方が早いんだが、ここは荒れて草木の深い庭。火事は避けたい。
「私が動きを鈍らせる。トドメを」
「問題無イ」
モリオ3号の戦闘力は不明だが、ニャッハが任せたのだから対応できるだろう。
「・・凍れ」
私は吹雪を散らしながら、槍系の技、弧月独楽、で回転斬りを放って青蓬・変異体を切り刻み、凍えさせて弱体化させた。
毒の飛沫をいくらか受けたがアンチポイズンで無効化する。
「もりおぱんちっ!」
モリオ3号はマナを込めて拳を握った右腕をマナを推進力に撃ち出し、半ば凍った変異体の身体に風穴を空けて、仕止めた。
突き抜けていった右腕は飛行して戻ってきて元通りにモリオ3号の右腕の肘の辺りに納まった。
「人間よりゴーレムの方が安全に立ち回るのはどうなのか?」
「我ハ気ニシナイゾ? カッカッカッ」
「・・・」
腑に落ちないが、ある種のシンパシーも感じないではない。
その他の2種もこんな具合に始末した。エンチャントアイスにディフェンドとアンチポイズンがあったから特に問題無かったな。ふふふっ。
「やぁお見事! じゃあ、今日の所はアズム君は休んでもらって、モリオ3号もチャージと自己補修を。わたくしとドゥテ君はざっとした範囲で庭の手入れに取り掛かろう」
「入ってみると結構広いですね」
「制御用の石柱がいくつかあるから、それを補修すれば周囲も纏めて片付くよ?」
「ああ、そういうこと・・」
2人は作業に入り、私は魔力と体力を両方回復できるマナポーションの小瓶を片手に庭の範囲外の先に片付いてる家の周りのエリアの古びたベンチに座った。
モリオ3号もついてきたが、ヤツは魔法石の欠片を1つ使い、その後おもむろに近くに落ちていた板の切れ端をバリバリとスナック菓子のように噛りだした。
「大雑把な自己修復だな」
「我ハ木製ダ」
「・・・」
反論するのが難しい。
庭の手入れは石柱さえどうにかすれば広さの割にはすぐ片付いたので、意外と翌日の夕暮れには完了した。
「ほう」
「思ったより立派だった!」
「当然ダ。我ガ守護スル庭ダッ」
「いや、これ程整った状態を見たのはわたくしも初めてです。まず親の代で風の庭のある家の引き継ぎが、上手くいってなかったので・・」
壮観だった。青蓬達も変異せずに整然と並び、草花や低木も調和を取って配置されていた。東屋や庭池等の設備も甦り、魔物という程でもないが凶暴化していた池の淡水魚等も大人しくなった。
シルフ、ブラウニー、ドリアード達は満足し、実体化するのを辞めてこの景色に溶け込み、マナを含む光る粒子をあちこちから発生させて風の庭を祝福していた。
「家と庭の魔法が正しく整った。洞窟の入り口を開いても大丈夫だね」
ニャッハは古風な作りの短杖を取り出し、構えた。
「・・開け、風紋の道!!」
ゴゴゴゴッッッ
地が揺れ、庭の一角が裂けて、木の根とも枝とも知れない部位が露出してトンネルを造りだし、光る風が吹き込みだした。
「オオッ、歴代デモ上位ノ仕上ガリダ!」
「今から行くんですか?」
「この気配は確かに風の牙ダンジョンの物だな。ふん」
「本格的な地下作業は休息して明日からするべきだろうけど、この家と庭周辺の地下は上を整えた影響で問題無いはずだから、ちょっとだけ降りてみよう。照明魔法! 」
ニャッハは光の球を3つ造りだし、ウキウキと洞窟へと続く木のトンネルへと進みだした。




