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ドゥテは戸惑ったような顔をした。
「ホントに何も聞かされてないのか?」
「行け、と言われたから来て、その成り行きだ」
「はぁっ、どうして冒険者ってそんなに雑に暮らせるのか? わたしにはわからない」
「前置きはいい。解説を求む」
「前置き・・まぁいい。話すが、いつまでも終わらないから手は止めるな」
相手が掃除を再開したので私も続いた。この家の散らかりはどうやら片付け切らないと徐々に、自主的に! 散らかりだす魔法が掛けられているようだ。
「ここは代々、フェアリーガーデン家が引き継いできた特別な場所でな。この家自体が、1つの魔法になってる」
「散らかり続ける家、ということか?」
「違う違うっ。これはただの精霊の嫌がらせ。この家は入り口を司っているのだ」
「具体的に」
「だから! ここはラメントの町。ラメントと言えば風の牙のダンジョン。つまりここに、風の牙のダンジョンの本来の入り口があるってことっ!」
「・・・」
唐突だな。聞いたこともない。風の牙のダンジョンは入り組んだ谷がダンジョン化したほぼ天然のダンジョンだ。
この地域の先住民? の文化の影響はあるようだが、自然発生した物だから秩序はあまり整っていない。
入り口はあちこちにあり、不用意に入ると危険なので全て管理されている。
であっても、保護林の中にあるとは初耳だ。管理法としても相当特異ではないか?
風の牙ダンジョンは特定の家に由来したダンジョンでもない。あくまでマナの強い自然の谷に依存したダンジョンだ。
「本来の入り口というのもよくわからないな。地形で言ったらラメント側の正面入り口は初級者向けの南西ゲートになるのでは?」
「冒険者的にはそうだろう。だが違う! 風の牙ダンジョンはこの家の庭の地下から続いてる谷と繋がった小規模な洞窟が最初にダンジョン化して、そこから伝播して谷全体がダンジョン化したのだ」
ドヤ顔で言ってくるドゥテ。
「・・脇道の類いの小さなダンジョンの入り口には、地域ごとに曰くが色々付くものだ。ここもその類いだろう」
フェアリーガーデン氏の古さや土着性からすると確かに風の牙ダンジョンの初期状態から関わりがあった可能性は低くないが、起源説を唱えるのは少々飛躍がある気がした。
「いやホントだっ! このことは牧場でも蘇生所でも秘密になってる、あんたも言い触らさないでくれっ」
「新しくダンジョン入り口が見付かれば、未確認ルート目当てで混乱になる。それくらいは理解してる。何にせよ、掃除をするだけだ。痛っ?」
勢いよく掃いたら、埃を被った側に転がっていた欠けたティーカップが頭に脛に飛び掛かってきた。
邪魔だ、極めてっ。
「どうもあんたとは話が噛み合わない! アズム・スモッグブリンガー」
「ドゥテ君。私と君に友情は必要無い。必要なのは・・掃除の実行だ!」
私は言いながら、猟犬のように脛への連続攻撃を企むティーカップを捕まえて、マナを込めて妨害魔法を解き、既に魔法を解いて掃除済みのテーブルの上の、他の処理済みの食器の列に並べてやった。
暫くして、リビングの掃除を終えた我々は、それぞれ離れた位置で、ドゥテは廃品と思われる品の整理。私はそのまま部屋には配置できないが再利用可能と思われる品の整理をしていると、ニャッハがモリオ3号と戻ってきた。
モリオはドゥテと乱闘したせいで元から埃まみれだったが、ニャッハも埃まみれになっている。
「はぁ~・・リビングの方も片付いたようだね。さすが魔法戦士と蘇生師っ。魔法学校の生徒辺りをバイトに雇っていたら返って散らかされていたはずだよ」
「学生等、目じゃないっ」
「それにしても部屋の散らかりに反撃されたのは初めてだった。ニャッハ、家の由来等のおよその話は聞いたが、私はこのまま掃除をすればいいのか? この私は、掃除屋ではないが」
「ああそうだね。色々段取りを飛ばしてしまったね。アズム君、君には3段階で仕事をしてもらいたい」
「ほう、言ってみるといい」
「あんたのその2階から話し掛けるみたいな態度はなんなのだ?」
「いい比喩だ。評価する」
「・・っっ」
ドゥテが目を剥いてきた。短気だな、ふん。
「とにかく、とにかく! まずは妨害魔法の掛かった家の掃除と補修! 次に同じく妨害魔法が掛かり、魔法ハーブ等も色々荒れてる庭の手入れ! 最後に庭から続いてる地下の洞窟の手入れだ。家の掃除以外は少なからず腕っぷしも必要になるよ?」
「なるほど。そういう具合か」
どうやら後半は冒険者のクエストらしくなるようだ。
「最悪、蘇生師もいるから保険は利いてる。問題無い」
「わたしはリザレクション使わないっ。生き物は死んだら生き返らない物だ!」
急に食って掛かってきた。
「ドゥテ、情緒不安定なのは理解しているが、君は蘇生師だろう? ただの牧場ノームなのか?」
「牧場ノームで結構!! 絶対嫌っ。絶っっっ対! あんたにリザレクションはしないっっっ!!!」
これ程明確に殺害宣言をされたことはない。
「ニャッハ、なんなんだこの畜産業者は?」
「アズム君。興味無いだろうけど、君以外の人の人生にも色々あるんだよ」
「機能不全ノ類イダネ」
モリオ3号は呆れていたが、私も同感だった。
家の掃除に関しては6割済んだ辺りで夕暮れになり、その日は風の庭がある家から引き上げることになった。
「新シイ家ノ主ト使用人達。明日モ確カニ働クヨウニ」
「失礼します・・」
モリオ3号に見送られ、ドゥテとは柵の前で別れた。街ではなく、牧場に帰るらしい。慣れてるらしく、どこからともなく現れた何頭かのリーテ山羊がドゥテの騾馬に連れ立っていった。
「アレも厩舎に帰るのか?」
「言い過ぎだよ。アズム君はどうする? 町に戻ってもらってもいいけど、風呂と食事と客間くらいは用意するよ?」
「経済的だな。厄介になろう」
「・・君はギルドからはヒステリックと聞いていたが、どちらかと言うと姫、というか殿様みたいだね」
「ふん? ヒステリックとはドゥテのような者のことを言う。私がそう誤認されたのは、私に対して激昂する者が多い為、それに対抗した結果、状況が荒れることが多いということだろう」
「ああ・・まぁ、殿様が生きてゆくには世知辛い世の中ではあるね」
「的確だな。評価する」
「そりゃどうも、ありがたき幸せ」
「・・・」
気のせいか、このワースクワール族の薬師にあしらわれている気がするな?




