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私は3級の魔法戦士職の中では優秀な方だ。そもそも魔法戦士職自体が貴重。魔術師と戦士、両方の適性が必要だ。
大成するには手間と費用も掛かる。多くは挫折し、魔術師職か戦士職に半端に転向し、そちらの道でも結局大成しない。
才能が足りず、貧乏で、運も無く、堪え性に欠ける。脆弱な、その他の者達。
一方で私は適性があり、代々魔法戦士職の家系であった為、研鑽する環境もあった。
多少余裕もあったので3級の冒険者としては装備も整っている方だ。
あらゆる点で、私は有用、と評価できる。
以前所属していた隊ではトラブルメーカーがいたこともあり、不本意な形で離散するハメになったが、このラメントの町の冒険者ギルドで新たに参加したパーティーにおいて、私は控え目に言っても、最大戦力と評するより他無いだろう。
にもかかわらず、だ。
「アズム君、悪いが暫く僕達のパーティーから外れてくれないか? ほら、薬師のニャッハが助手を探していたから、そこを手伝ってみるのもいいと思うよ」
パーティーリーダーの狸人族の男は無意味に笑顔をキープしながら言っていた。
他の3人は離れた宿の酒場の離れたテーブルでソッポを向いている。
「は? 意味がわからない。確かに薬師のニャッハが助手を探していたようだが、その程度の雑用仕事は4級5級の冒険者がする物だ。なぜ私がニャッハの元にゆかねばならないのか? まるで、意味がわからない」
前のパーティーはリーダーがのらりくらりとしたヤツで、他の2人も様子のオカシイ者達であったから同じテーブルで食事を取ることも総合的にはないではなかったが、今回のパーティーはいかにも凡庸過ぎて落ち着かない物があり、同席して食事を取ることは基本的に無い。
今も狸リーダーがジョッキ片手に私のテーブルに立って来ていた。
「それはそうなんだけどさ、その・・アズム君さ。ちょっと言葉とか態度が強いよね? 他の3人、胃炎になっちゃってさ。冷却期間じゃないけど、少し間を置いた方がいいかな? って思ったんだよ」
胃炎? 私の発言等で? 改めて見ると、離れたテーブルの3人は首が取れるのでは? というレベルで顔を背け、断固、私と目を合わせなかった。
「私がパーティーを抜けるの大きな戦力ダウンだ。君達程度が、風の牙迷宮の中域を探索できるようになったのは、主に私の功績だ。確かに武僧のエリに戦い方が直線的で頭が悪い、持ち道具の使い方が頭が悪い、寝相が頭が悪い、リボンの結び方が頭が悪いとは言った。魔法使いのドゥモンには妨害系魔法にばかり拘り過ぎだ、性格がよく出ている、人として程度が低い、しかも成功率が低い詰めの甘さは小悪党とは言った。僧侶のムギッコには信仰心が足りない、イケメン吟遊詩人グループの追っかけ活動の方が熱心、普通の仕事では追っかけ活動の資金を貯められないから冒険者をしているだけ、僧侶は手段とは言った。君に関しては敵を仕止めようとする時にいちいち大振りするから先に仕止めてはいたし、イビキがうるさい時に濡れた布を顔を被せたことはあったし、ギルド職員や依頼主に彼は実力的に2番手なので実質私の補佐とは言っていた。だがどれも事実であり的確。私は完全に正しい。胃炎は回復薬でも飲めばいい。イビキは鼻にバンドを貼ってイビキを抑制する器具がある。私も積極的と言う程は君に対して殺意を抱いていない。君はもっと私の邪魔にならないよう気を付けて生活すべきだろう」
「・・うん、とにかくアズム君と距離を取る、というのが僕達の決定事項なんだ」
狸リーダーは最後まで笑顔でそう言い切った。全く、意味がわからない。何が不満だというのか??
風の牙ダンジョンが近いこともあってラメントの町に薬師は数多いが、ニャッハは古い家系の薬師だ。
それこそかつてのヨカ王朝が全盛の頃から、当時は風の牙ダンジョンの守り人達の隠れ里に過ぎなかったラメントで薬師をしていたそうだ。
町外れの保護林の管理人を兼ねて林と町の中間辺りに薬の工房を兼ねた居を構えて暮らしていた。
製薬が専門で、直接人を診ることはあまりないようだったが、3級の薬師であっても製薬に限れば2級並みの技量の持ち主で界隈では名の知れた人物ではあった。
「助手が必要なようだな。3級魔法戦士のこの私、アズム・スモッグブリンガーが来た。特別に、話を聞こうか?」
私はアトリエの来客用らしいソファに座り、堂々と促した。
「アポ無しで、凄い上から来るよね? まぁいいけど。ルッハ、アズム氏にお茶とお菓子を」
ニャッハは小柄な栗鼠人族だ。子供もそうで、一見完全に幼児だが、実際はそうでもないらしく、父親の手伝いをしていた。
言い付けられて、露骨に迷惑顔をしていた。
「まだギルドに依頼してないのにっ。誰なの、このエラソーなロングレッグ族!」
「この間のマンドレイク亜種の採集仕事を頼んだパーティーにいた人だよ。お前はあまり顔を合わす機会がなかったろうけど」
「そういうことだ。早く茶と菓子を持ってくるのだ、そこの幼児よ」
「・・幼児じゃねーしっ」
ルッハという名のニャッハの子供(男女どちらかよくわからないが、特に問題無い)はムッとした顔でアトリエを出ていった。給仕としては落第だな。
「さて、改めて。アズム氏、わたくしはニャッハ・フェアリーガーデン。3級薬師で、ここで代々林の管理と製薬を生業としている」
「知っている」
「うん、だよね。前に貴方のパーティーに自己紹介したしね。まぁ一応貴方個人にも名乗っておこうと思ってね」
「良い心掛けだ。評価する」
「それはどうも! アズム氏、実はわたくしは遺産を受け取ることになってね」
「ふん?」
法務や財務は専門外だが?
「そうだね・・来てもらった方が早いかな? お茶が済んだらそこへ連れてゆくよ」
どうやら私はどこかへ連れてゆかれるらしいな。動じはしない。ふふん。
茶はフレッシュミックスハーブティーの蜂蜜添えと、胡桃のスコーンの木苺ジャム添えだった。
私はルッハに、
「およそ想像通りの茶と菓子だが、味も想像通りだ。悪いという程ではない。強いていえば、田舎風、だな」
と感想を述べると、
「美味しかった、って普通に言え!」
と、べらんめえに怒られて困惑した。短気な子供だ。だが、子供相手にムキになる私ではない。ふふん。
驢馬に乗ってニャッハは保護林の軽い魔除けの掛かった林道を進んでいた。
私は徒歩だが、驢馬の歩みは遅いので齟齬は無かった。
「わたくしばかり驢馬に乗って悪いね」
「構わない。案内役が遅れるなり中途でヘバるなりするのは間が抜けている」
子供か、小柄な種族以外は驢馬に乗って移動するのは難しく、動物虐待だろうしな。
それにしても、
「木こりでもなく、非力なワースクワール族の君の家だけで管理しているにしてはよく整った保護林だな。妙に野生化した? リーテ山羊がウロついてはいるが??」
保護林は林道だけでなく、雑草に低木、高木の間引きや低い位置や幅が出過ぎた枝まで几帳面という程ではないがそれなりに手入れされていた。
チラホラとリーテ山羊が草や低木の小枝や高木の低い位置の枝葉を噛ってもいたが。
保護林というより、コンパクトな森林公園といった趣。しかし観光地ではなく、立ち入り禁止の私有地であった。




