人間不信の俺にやたらと構ってくる幼なじみ
「最近どうなん?」
聞き慣れた声が耳をくすぐる。女特有の甘い声とやたら聞こえてくる吐息。
週に一度は電話をかけてくる幼なじみ。名前は灯
「どうって…いつもどおり何も変わらん」
「ふ〜ん。あ、そーだこの間のドラマ見た?なんだっけ夜空の──」
「夜空のシンフォニーな。俺んちテレビないの知ってんだろ」
「そうだっけ?それでやばいんよ!主人公の奏汰がさぁ」
こんな感じで他愛も無い世間話をなんの前触れもなく始める。それは二人の決め事なんかではないけどいつからか習慣化していた。そういえばいつからだっけ。
「それでさ、」
「ん」
灯らしくないやけにしゅんとした声色がちょっと気がかりになる。
「会社の先輩にさ。告られた。付き合ってって」
「そっか」
「私のこと好きなんだって。好きだから一緒にいたいんだって」
俺はなんて言えばよかったんだろう。こいつとの付き合いは小学生の頃からだから長い付き合いになる。そうすると友達、異性というよりもなんというか家族のような距離感になるんだ。
「それで、灯はどうしたいん?」
「ねぇ」
「ん」
「祐也ならさ。何て告白してくれる」
「俺が?」
「うん」
妙な間がやけに胸をざわつかせる。灯からしたら何ともない会話なのだろう。だけど俺には少なくとも脳を小休止させるぐらいには効果てきめんだった。
「ちょっとイメージつかないな」
「ひどーい。そんなんじゃ彼女できないぞ」
「うるせぇ」
何となく分かった。多分灯の返事は決まっているんだろう。だとしたら俺にできることは一つしかない。
「灯はおっちょこちょいで少しアホだけどすげぇいいヤツだから幸せになれると思う。幸せになってほしいと思ってる」
「うん…ありがとね。じゃあ、またね」
その日から灯との連絡は途絶えた。一週間経っても二週間経っても灯から連絡が来ることはなかった。
そうだよな。普通男ができたらほかの男と電話したりなんかしないもんな。今更後悔していることに自己嫌悪する。だけど、幸せになってほしいのは事実だ。好きだから幸せになってほしいと思うのは間違いなのだろうか。
そんな自己矛盾に頭を抱えていると灯から連絡が来た。
「最後に会いたい」
俺はスマホを握りしめ走り出していた。他ならぬ灯の場所に。
「すっごい汗。もしかして走ってきたん?」
いつもと変わらない灯の様子に少しだけ安心した。
「先輩にさ…返事しようと思ってる。断る理由も見当たらなくて」
「あのさ」
俺は持っていたスマホを滑って落としてしまった。
「凄い音したけど大丈夫?ガシャーンって言ってたけど」
「灯。この間の答えだけどさ。俺が灯に告白するならって話」
「うん」
「ずっと好きだった」
「祐也は昔から遅いよね」
「ごめん」
「でも、ありがと」
割れたスマホには寄り添う二人が映し出されていた。
リハビリ投稿です。勢いで。