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どうしても憎いあなたへ  作者: 佐藤つかさ
第二章
94/104

3-38

 ミナーヴァの生まれはキルシュブリューテ。

 別名花の都。

 ティルナノーグから遠く離れた内陸地にレンガを積んで出来た町。港という交流機関はないものの、陸路の開拓と雇ったギルドによる治安維持により独自の流通ルートを確保。

 花はもちろんのこと、そこから採れる染料、薬品の原料など、アーガトラム大陸だけではなく海を越えた先の貴族すら喉から手が出るほど欲するものがこの町ではダース単位で生産されているのだ。

 一年中花が咲き誇り、喜びに満ちた町。

 ミナーヴァが暮らしているのはその外れにある村だ。

 とある事情があって、ここ三百年外交を断絶していたらしい。


 理由は簡単。

 隔離である。


「アナトリアって名前の村でさ。森林伐採とか焼畑農業なんかやってて生活してたの。まぁ当時のご先祖様がやってたことを簡単に言うと、金目当てにエルフや精霊にケンカを売りまくって農地を拡大――で、恨みを買ったってわけ」


 意外なことに、相手は森に宿る精霊でもなければ森を愛するエルフでもなかった。

 さらに言ってしまうならば、生物ですらなかった。

 

 寄生樹。

 

 植物は本来、光合成によって栄養を生産する。

 二酸化炭素を取り込んで糖を作る。この糖に脂質に変えたり、あるいは窒素を加えてたんぱく質に変えたりもできる。

 このように植物は動物にできないことができるのだ。――無機物を有機物に錬成する。

 しかしこの寄生樹は植物というカテゴリの中でもかなり得意といえる存在である。


 まず光合成をおこなわない。

 植物に必ず存在する葉脈――つまり葉がないのだ。

 大抵は暗い洞窟で咲き誇っているのだが、まれに外に出ていく種がある。

 別の植物や動物の亡骸に憑りついて、花を咲かせるのだ。

 にえになるのは、憑りつかれた肉体だ。

 そう、寄生樹は無機物を有機物に変えるのではない。有機物を分解――いや破壊することで成長するのだ。


 しかし森を焼かれたことで寄生樹は居場所を失った。

 これからどこを住処にすればいい?


 答えは簡単。

 人間だ。


「ご先祖様はみーんな寄生樹に取りつかれて全滅。まぁバイキンみたいな扱いでさ。村を丸ごと壁で囲って閉じ込めたの。それからはすごいよー? 宗教コミュニティ作って変な妄想垂れ流す人。真正面から寄生樹の謎を解き明かそうとする人。耕して飯を作って、とにかく生きようとする人。あたしたちのご先祖様は壁の中で細々と暮らしたの。時々家が燃えたり、爆発したり何人か死んだけど、それはまぁ些細なことだった。とにかく死んで死んで、また死んで、でもそのたびにデータを積み重ねて、生き延びる人耐えられた人の共通点を見出して、危ない薬も打ちまくったし、変なまじないをやったりもした。あの時代は善悪の区別なんて浜辺に引いた線と同じくらいあやふやなものだった。だけどいくつもの世代交代を繰り返していくたびに適応できる子供が増え始めて、その子供同士でつながって血を濃くして、安全無害な薬も開発して――気合と根性で安定をつかみ取った。今や新人類の仲間入りってわけ」

 

 そんなサキュバスたちの今の役割は農業。

 花中心のキルシュブリューテが取り扱っていないビジネスに参入したのだそうだ。何せ三百年分のノウハウがある。

 今ではサキュバスはエルフと精霊と仲を取り戻し、今では人間との取引の仲裁役にまでなっているらしい。

 サキュバスがこうして大手をふって外に出られたのはつい最近。

 元は村の復興を行う世代がほとんどだったが、最近は復興の地盤が固まってきたので、ミナーヴァたちのような外に目を向ける若い世代が増え始めたのだそうだ。

「アウラって言ったら豊作を祝うお祭りでしょ? 農民としちゃ是非やりたいイベントだよね。サキュバスも大々的に取り入れたの」


 サキュバスは農民だ。

 ミナーヴァも地元ではもっぱら畑仕事をしていたらしい。

 そのあたりはイオリも苦労が理解できた。白花じもとにいたころはよく家族の畑仕事を手伝っていたものである。


「アウラって、ミナーヴァの地元だと何してたの?」

「燃やした」


 ......何を?


「あぁごめんごめん。一年に一度、畑で使ったカカシを集めて夜に燃やすの」

「カカシ燃やすの? なんかもったいないね」

「しょうがないよ。燃やそうにも死体がないし」


 ......何て?

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