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「ユータとは森で出会ったの。ユータってばペルシェをずっと探してて、それでグールに襲われて」
なんだかんだで結局イオリの番になり、観念して重い口を開けていたところだった。
あたしも襲われた、とクレイアが相槌を打つ。それも一回りも二回りも巨大なやつだったらしい。
「ミナーヴァはグール見たことある?」
クレイアが話題を振ってみる。
「あるよ。仕事でなら」
猛烈に嫌な予感がした。
「こういう満月の夜だったかな。ナパームとガソリン持ってドカンと。いやー。暖かかったわー。冬だったけど」
大当たりだった。
「焼けたグールの匂いがしてきてさ。そしたら」
「気分悪くなった?」
「や。お腹空いてきた」
「腹ペコか」
クレイアは呆れ果てる。
それでも気を利かせてアップルパイの準備するあたり、客商売に手慣れていた。
「わ。それクレイアが作ったの?」
「あー、んー、まぁ、ね」
妙に歯切れが悪い。
イオリが訪ねようとしたその時だった。
「それで? いつから付き合ってるの?」
ミナーヴァが話に割り込んでくる。何というか、ものすごく機嫌がいい。
自分の恋愛経験がろくなものがない反動か、この手の話が大好物なのだそうだ。
申し訳ないけどと、イオリが遠慮する。
「いや付き合ってないから」
目をぱちくりとさせるミナーヴァ。
「え、でも……」
その時背後から声がした。
ユータスに呼ばれたのだ。
「ごめん。ちょっと待って」
二人に謝ってから、イオリはユータスの作業場まで足を運ぶ。
一応ミナーヴァたちは対戦相手なので、彼女らには聞こえないように声をひそませて会話した。
息が届くほどの距離まで近づいて。
だからクレイアとミナーヴァに見られているなんて知らなかった。
「付き合ってないの? あの距離感で?」
「みんな一度は言うんだわ。ソレ」
こんな会話をしていることにも、気づけなかった。




