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どうしても憎いあなたへ  作者: 佐藤つかさ
第二章
90/104

3-34

「ユータとは森で出会ったの。ユータってばペルシェをずっと探してて、それでグールに襲われて」

 なんだかんだで結局イオリの番になり、観念して重い口を開けていたところだった。

 あたしも襲われた、とクレイアが相槌を打つ。それも一回りも二回りも巨大なやつだったらしい。


「ミナーヴァはグール見たことある?」

 クレイアが話題を振ってみる。

「あるよ。仕事でなら」

 猛烈に嫌な予感がした。

「こういう満月の夜だったかな。ナパームとガソリン持ってドカンと。いやー。暖かかったわー。冬だったけど」

 大当たりだった。


「焼けたグールの匂いがしてきてさ。そしたら」

「気分悪くなった?」

「や。お腹空いてきた」

「腹ペコか」


 クレイアは呆れ果てる。

 それでも気を利かせてアップルパイの準備するあたり、客商売に手慣れていた。

「わ。それクレイアが作ったの?」

「あー、んー、まぁ、ね」

 妙に歯切れが悪い。

 イオリが訪ねようとしたその時だった。


「それで? いつから付き合ってるの?」

 ミナーヴァが話に割り込んでくる。何というか、ものすごく機嫌がいい。

 自分の恋愛経験がろくなものがない反動か、この手の話が大好物なのだそうだ。

 申し訳ないけどと、イオリが遠慮する。

「いや付き合ってないから」


 目をぱちくりとさせるミナーヴァ。


「え、でも……」

 その時背後から声がした。

 ユータスに呼ばれたのだ。


「ごめん。ちょっと待って」

 二人に謝ってから、イオリはユータスの作業場まで足を運ぶ。

 一応ミナーヴァたちは対戦相手なので、彼女らには聞こえないように声をひそませて会話した。

 息が届くほどの距離まで近づいて。

 

 だからクレイアとミナーヴァに見られているなんて知らなかった。

 

「付き合ってないの? あの距離感で?」

「みんな一度は言うんだわ。ソレ」


 こんな会話をしていることにも、気づけなかった。

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