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どうしても憎いあなたへ  作者: 佐藤つかさ
プロローグ
9/104

1-9

「やっと出られたな」

「そうだね……」

 脱力しきったイオリはそれだけしか答えられなかった。

 

 力いっぱいフルスイングした結果、自分より何倍も大きいゴーレムはまるで紙風船のようにあっけなく吹き飛んで砕け散った。

 イオリたちはその拍子にできた穴から抜け出して、相手の罵倒やらな悔し涙やらを背中に受けつつも

外に出られたというわけだ。

 

 後ほど知ることになるのだが、相手の名前はヤン。

 かつてティル・ナ・ノーグ侵略をもくろみ、秒でその夢を粉砕され自分自身も粉砕骨折された長空チャンコンの元軍師ことウーホァンに雇われていた海賊で、ウーホァンが寝返った今となってはフリーランスの傭兵として活動していたらしい。

 ちなみにここから先、彼は地獄よりもつらい責め苦を受けることになるのだが、それは先の話で明らかになることである。

 

 先に明らかにすべきなのは、イオリとユータスの物語であろう。

 二人は閉じ込められていた廃墟から顔を出すと、目についた光に気付く。

 夜だというのに昼のように明るいその場所は――闘技場と呼ばれていた。


 街の中心部に建造された、円形の巨大広場。

 そこでは命がけの戦いが繰り広げられている。

 名うての剣闘士であれば一夜にして富と名声を手に入れることも夢ではない。


 イオリ・ミヤモトが目指しているのは医者である。

 人を癒すことを職務とする白花シラハナたみがどうして闘技場に足を運ぶこととなったのか。

 それは――

 

 ここでふと、イオリは気づく。

「ユータさ。伝声管で声だけが聞こえてるってわかったよね?」

「ん? そうだけど」

「堂々と手錠外してたってことは、その前に確信できてたってことだよね? どうして?」

 ああそれはと、ユータスが話し出す。

「最初にあの人こう言ってただろ? 『坊やたち』って。たぶん声でイオリのこと男と思ってるんだろうなって察したんだ」


「……は?」

 

 信じられないくらい冷たい声が出たものだと自分でも思う。

 近くに花があったらドライフラワーになるくらい冷え切っていただろう。

 もしくは、蒸発しているか。 

 

「ユータ? それはつまりこの私が男っぽい声をしていると? 男っぽいと仰ってますアナタ?」

「ん? まぁそこそこ低い声だし男っぽいなって――」

 ユータスの声は最後まで伝わることはなかった。

 イオリが問答模様のツッコミ――ハリセンによるフルスイング二発目を見舞ったからである。

「私は女じゃ言うちょろうがあぁぁぁああっ!!!!!!!!!」

    

 か弱き乙女の一撃はユータスの矮躯わいくを易々と吹き飛ばし、はるか彼方の星空にまた一つ星を加えたのであった。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] いつも楽しくよませてもらっています。 ユータスくん無双が読んでいて気持ちが良かったです。彼の才能もさることながら、ちゃんとオチまでもっていく。本当になんでもできるんだなあ(違)。 イオリの…
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