3-20
竜の子は笑っていた。
彼らしからぬ高らかな哄笑。
大口を開けて体をくの字に折り曲げて無防備に笑い続ける。
心底楽しそうに。
だから余計に不愉快だった。
「これは傑作だ。医者がしちゃいけない顔してたよ。殺し屋の方が向いてるんじゃないのかい?」
目尻に涙の珠を浮かべている。
そこまで滑稽に見えたのか。
「ミナーヴァはなんであんたみたいなのと付き合ってんの?」
「相性が良かったのさ」
皮肉のつもりだったが、アクチェはどこ吹く風よと受け流す。どうやら思った以上に人の悪意には慣れているらしい。
「話したいところだけど、僕の青春白書は1ページ目にこう書かれてる」
続けて彼はこう言った。この先は閲覧禁止です、と。
不意にさっきのキスを思い出す。このエロガキめ。
「話すより見せた方が早い」
言いながらアクチェは腰に手をやると、ある塊を抜き取ったではないか。
持ち手と引き金。
「これは、おね……ミナーヴァが使っている銃の試作モデルだ」
銃身を手にして、持ち手をイオリに突きつける。
掴めという意味だろう。
「…………」
手に取るとずっしりとした感触があった。
初めて木刀を手にしたような感触。
硬く、重い。
殺意がそのまま形になったような禍々しさを秘めている。少し持っているだけで手首が疲れてさえきた:
ミナーヴァはこんなものを片手で振り回していたのか。調子に乗ってガンスピンまでしていたというのに。
「N ‐WGⅨ/v。試作モデルの名前だよ。それを持ったまま、うんそう。いいよ。そのまま……」
銃身を掴んだまま、イオリは構えの姿勢を取らされる。足を開いて重心をとり、脇を締めて銃口の目標を前方に向ける。
前にはアクチェが立ちはだかっていて、まだあれこれと指示をしている。
銃口はしっかりとアクチェの額に向けられていた。
これでは。
これではまるで――
まるで彼を撃ち殺そうとしているみたいではないか。
銃が大きく戦慄いた。
骨まで響く振動。痛み。驚き。
そして花が開いた。
アクチェの後頭部に咲く花の赤。