1-7
『何なのさっきから! どうして秒で仕掛け解いていくのさ!』
相手の抗議に、ユータスは心底わからないといった風に、
「……? どうするのが正しかったんだ?」
『奪い合いするんだよそういうのは!』
その言葉に対して、ユータスは真っ向から否定した。
「こっちは生存が目的なんだから、争い合ったらまずいだろ? 業者同士だって、競い合うよりもコラボした方が長生きしやすいし」
『だからってこっちが想定してない方法でクリアしないでくれない!?』
「自分で作ったほうが早い」
『だーかーらぁー! 自分で道を切り拓かないでほしいの! 何でそんな頭の回転早いの! なんでそんな代案ポンポン思いつくの! どうしてそんなに諦めが悪いの!』
愚痴とも罵詈雑言ともつかぬものが壁から吐き出されていく。
なんというか、妙に人間じみていて怖さに欠ける。
不意に、服が引っ張られる感触がした。
ユータスが引っ張ったのだ。
行こう。
彼の唇がそう動いていた。
「行くってどこに?」
声に出して言うと、ユータスが困ったようにあたりを見回した。
「ここから出よう。出口はオレが作る」
「でも相手が誰かもわからないのに」
いまだ迷っている態度のイオリに、ユータスがその迷いを解きほぐすように説明してくれた。
「相手は人間。たぶん長空の人だと思う」
なぜ分かるのだろう。
「発音の語尾に母音がついてる。スタートって区切らずにスタートォって伸ばす感じ。長空の人がここの言葉を話すときに出てくる癖だ。あと、たぶん伝声管を使ってここに声を送ってる」
「デンセイカン?」
「通話装置だよ。金属管でつないで、先っぽに漏斗みたいな形の受話器をつけてるやつ。管の中に声を響かせて、遠くにいても会話できるんだ。オレが手錠を解いてから相手は手錠が解けたことに気づいてた。見てたら俺が手錠をいじってるときに気付くだろ? だから相手はきっと遠いところにいるんだ」
ボーっとしているようでいてよく見聞きしている。
職人はみんなこんななのだろうか。
「ところで何でさっきから小声なの?」
「伝声管がどこにあるか、わからないからな。下手をしたら――」
『全部聞こえてたぞ……』
相手の声が響き渡る。その声には怒気がにじんでいた。
イオリはようやく、ユータスが懸念していたことが理解できた。
目は見えないけど声はわかる。
つまりこちらの声は丸聞こえだということだ。