3-11
試合が始まる。
片や、料理のスペシャリスト。
片や、こちらズブの素人。
勝敗は火を見るより明らかだ。
燃え尽きるのはイオリの側だろう。
司会担当であるミナーヴァがマイクで呼びかける。
「ちなみに、あたしも参加します」
「何で!?」
イオリは抗議の声を上げる。
つまりクレイアだけではなくミナーヴァも相手にしなければならないということだ。
一体何を企んでいる。
「料理対決に憧れてましたっ!」
「帰れッ!」
キラキラした笑顔にハリセンを叩き込む。
それが試合開始の合図だった。
ゴミに埋もれるミナーヴァを無視してイオリは向き直る。
手拭いを頭に巻き付けて、食材を見やる。
さつまいも、小麦粉、食用油。
調理に必要なものは概ね揃っている。
ミナーヴァとクレイアも並んで現れた。
ゴミまみれだったミナーヴァは指をはじいて“お着換え”していた。
クレイアと同じコックコートに身を包む。
エプロンは二人ともしっかり一文字巻き。
リボンの巻き方と違って面積を減らした――プロの料理人向きの巻き方だ。
ミナーヴァに至ってはつけていた指輪や腕輪の類を一切外していた。きちんと手も洗っている。思ったよりも根は真面目らしい。
それにしても。
イオリはチラリと友人をみやる。
クレイア・イーズナル。
一流菓子職人。
勝ち目はゼロに近い。
けどゼロじゃない。
菓子なら料理は専門外だし、ミナーヴァも見たところ料理するタイプじゃなさそうだし。
まだ勝機はある。
そんなミナーヴァは食材を値踏みするように見つめている。
なんというか目利きの目をしている。
料理人というより古美術品の取引をしているような空気を醸し出していた。
そんな彼女は見抜き、ある物を見出していた。
掴み取る。
それを見てイオリは驚いた。




