1-6
(は、速い……)
イオリは唖然としていた。
ユータスは目にもとまらぬ速さでパズルを組み上げている。
ただし正確さには欠けている。
何しろ設計図がないので、手当たり次第に思いつく造形を試しているのだ。
だが繰り返すたびに磨きがかかっている。
最初は手当たり次第だったのが、しだいに具体的な形にまとまっていくではないか。しかも完成度を格段に上げながら。
お城? 失敗。
帆船? 失敗。
動物? 失敗。
トライアンドエラーを繰り返し、限られたパーツ数で組み立てられるものを解き明かそうとしている。一向に正解にたどり着かないけれど、組み立てと分解がべらぼうに速い。
まるでそういう機械を見ているかのようだった。人間の動きではない。
だから完成は時間の問題に思われた。
なのに。
「……できない」
「え?」
「パーツが足りない。答えは見えてるんだけど、作るには部品がいくつか足りないんだ」
「ちょ、どうするのユータ!」
さすがにイオリの声にも焦りが混じる。
そしてイオリは知らなかった。
ユータスが完成に一歩手が届いているという事実に。
そして完成などしないということに。
なぜなら相手の男がパーツをくすねているからだ。
ユータスが足りないと言ってるパーツ。おおよそ三つ。
それも組み立てに絶対不可欠なところばかり。
だからユータスがいくら悩もうと絶対に完成などしないのだ。
だからユータスは悩むのをやめた。
「作るか」
工具を集めて、材料を集め始める。
しかし今回に限ってちょうどいい金属が見当たらない。せいぜい小さな木片くらい。
「木でいいか」
材質にこだわらないなどユータスらしからぬ大雑把さだが、今回の目的はパズルを組み立てることである。
金属で統一しろとは言われていない。
「イオリ、あれ持ってるか?」
「あれ?」
「ほら、あのオービィとかいうやつ」
「OB? おー……ひょっとして“おにぎり”のこと?」
「そう、それ」
ちょうど包みに入れていたので、納得できないもののユータスに渡そうとすると「ちょっとでいい」と指一つまみ分だけ取られた。
つまんだ米粒を口に入れると、歯ですりつぶしてペースト状にしていく。
それを口からつまみだすと、木片同士の間にこすりつけてくっつけたではないか。
なんと米を接着剤代わりにしたのだ。
実際、米は工業用接着剤として重宝している。
イオリの故郷である白花でも続飯と呼ばれ、冷えて固まることで木材と一体化する性質を持つ。
建造物はもちろんのこと仏像にも使われており、その強度は三百年は維持されるといわれている。
驚くべきなのは、イオリがそのことをユータスに教えていないこと。
彼は遠く離れた白花の知らない文化を、カンで再現したのだ。しかも思いつきで。
その方がよほど恐ろしい。
相棒にそんなことを思われているなど露知らず、ユータスは黙々とヤスリで木片を削り、足りない部品の形に仕上げていく。
そうしてはめ込み、あっさりとパズルは完成した。
「できた」
『さっきから何してんのお前!』
とうとう相手がキレた。
ある意味当然の結果であった。