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どうしても憎いあなたへ  作者: 佐藤つかさ
プロローグ
6/104

1-6

(は、速い……)

 イオリは唖然としていた。

 ユータスは目にもとまらぬ速さでパズルを組み上げている。

 ただし正確さには欠けている。

 何しろ設計図がないので、手当たり次第に思いつく造形を試しているのだ。

 だが繰り返すたびに磨きがかかっている。

 最初は手当たり次第だったのが、しだいに具体的な形にまとまっていくではないか。しかも完成度を格段に上げながら。

 

 お城? 失敗。

 帆船? 失敗。

 動物? 失敗。

 

 トライアンドエラーを繰り返し、限られたパーツ数で組み立てられるものを解き明かそうとしている。一向に正解にたどり着かないけれど、組み立てと分解がべらぼうに・・・・・速い。

 まるでそういう機械を見ているかのようだった。人間の動きではない。

 

 だから完成は時間の問題に思われた。

 なのに。

 

「……できない」

「え?」

「パーツが足りない。答えは見えてるんだけど、作るには部品がいくつか足りないんだ」

「ちょ、どうするのユータ!」

 さすがにイオリの声にも焦りが混じる。

 

 そしてイオリは知らなかった。

 ユータスが完成に一歩手が届いているという事実に。

 そして完成などしないということに。

 

 なぜなら相手の男がパーツをくすねているからだ。

 ユータスが足りないと言ってるパーツ。おおよそ三つ。

 それも組み立てに絶対不可欠なところばかり。

 だからユータスがいくら悩もうと絶対に完成などしないのだ。

 

 だからユータスは悩むのをやめた。


「作るか」

 工具を集めて、材料を集め始める。

 しかし今回に限ってちょうどいい金属が見当たらない。せいぜい小さな木片くらい。

「木でいいか」

 材質にこだわらないなどユータスらしからぬ大雑把さだが、今回の目的(ルール)はパズルを組み立てることである。

 金属で統一しろとは言われていない。

「イオリ、あれ持ってるか?」

「あれ?」

「ほら、あのオービィとかいうやつ」

「OB? おー……ひょっとして“おにぎり”のこと?」

「そう、それ」

 ちょうど包みに入れていたので、納得できないもののユータスに渡そうとすると「ちょっとでいい」と指一つまみ分だけ取られた。

 つまんだ米粒を口に入れると、歯ですりつぶしてペースト状にしていく。

 それを口からつまみだすと、木片同士の間にこすりつけてくっつけたではないか。

 なんと米を接着剤代わりにしたのだ。

 

 実際、米は工業用接着剤として重宝している。

 イオリの故郷である白花シラハナでも続飯(そくい)と呼ばれ、冷えて固まることで木材と一体化する性質を持つ。

 建造物はもちろんのこと仏像にも使われており、その強度は三百年は維持されるといわれている。

 驚くべきなのは、イオリがそのことをユータスに教えていないこと。

 彼は遠く離れた白花シラハナの知らない文化を、カンで再現したのだ。しかも思いつきで。

 その方がよほど恐ろしい。

 

 相棒にそんなことを思われているなど露知らず、ユータスは黙々とヤスリで木片を削り、足りない部品の形に仕上げていく。

 そうしてはめ込み、あっさりとパズルは完成した。


「できた」

『さっきから何してんのお前!』

 

 とうとう相手がキレた。

 ある意味当然の結果であった。

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