1-5
イオリの足枷を解いた後。
相手に言われるがままにユータスは、そしてイオリは次の部屋に移動することとなった。
正確には口論ばかりで埒が明かなくなったのでイオリがユータスをはっ倒したというのが正解だ。
訳ありで彼を歩かせるわけにはいかないので、車いすに乗せたままイオリが押していく。
だが次の部屋に入った瞬間、そうも言ってられなくなってきた。
『よく来たな坊やたち! これでもくらえ!』
声とともに大掛かりな仕掛けが目覚める音がする。
天井の穴から整列された棘が姿を現す。槍の穂先のように鋭く、ひとつひとつが大砲の玉のように大きい。
『その部屋から出るには扉にある暗証番号を解かないといけない! そこのダイヤル錠が見えるかな? 十ケタの暗証番号は百億通りあるぞ! ひゃく・おく! 解けるものなら解いてみ――』
相手の声は、ユータスが黙々とダイヤル錠を回す音――しかも異様に速い――にかき消されていった。
最後に大きな解除音とともに、シリンダー錠はあっさりと二つに分たれた。
「できた」
行こうと促されて、イオリは車いすを出来たばかりの出口に向かって押し始める。
「ユータ、よく解けたね」
「すり減り具合や手垢を見ればすぐわかる」
『…………』
次の部屋は左右から壁が迫ってくるというものだった。
早く出ないとユータスとイオリがくっついてしまう。
『止めるには歯車が必要だ。だがおっとっと、今ある歯車は歯が欠けているな? そこにある山から正しいものを探し当てろ! 大きくても小さくてもダメだぞ? サイズが合うものを探し出して――』
ユータスは山を無視して、欠けた歯車を拾い上げる。
まずは欠けている部分に穴を空けてネジを埋め込む。
さらに錆びた鉄とアルミニウムを削り始める。
削った粉末に火をつけてテルミット反応を引き起こし、鉄をも溶かす高熱で歯車を燃やす。
ネジに肉付けした鉄を冷やして固め、ヤスリで削り取る。
机の上に粘土をくっつけるような心もとなさだが、そこはネジを埋め込むことで強度を底上げしている。
「できた」
即席の歯を入れた歯車をはめ込むことで、難なく新しい扉が開いた。
「ユータ。溶接もできるの?」
「よく仕事で、抜けた底の鍋とか直してる」
『…………』
今度は水責めだった。
密閉空間に時間をかけて水を入れて中にいる人を窒息させるというやつだ。
クリアする条件は、真ん中のテーブルにある立体パズルを組み立てるというもの。
金属でできた部品は百を超える膨大なパーツ量で、しかも全部素材のまま。
つまりは銀一色。真っ白のジグソーパズルを組めと言っているようなものだ。
こんなの解けるわけがない。
はずだった。