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関係ない話だが、馬車の事故でよくあるのは巻き込み事故である。
右に曲がった時、思ったよりも後輪が回っておらず、しかも死角になっているのでそれに気づかず後ろにいた人を巻き込んでしまうのだ。
そして心な言葉で人を傷つけてしまう。
また、人の魂の重さは21ジェムであるという言われている。
もちろんこれは俗説であるのだけれど、心臓を止める方法はきちんと立証されている。
殺せばいい。
特に撲殺する際に使われる凶器の重量は900ジェムであると言われている。
もしくは、最近導入された小型ゴーレムの重量であるとされている。
ゆらめいている。
少しずつ。
小さな何かが。
小さなゴーレムのようでもあった。
サイズは大したことはない。人と同じくらい。
痩せ細っていて、まるでネズミのようであった。
数も。
一。
十。
百。
万。
一気に数が溢れてくる。
尋常ではない数のゴーレムが出てくるではないか。
もう床が埋め尽くされている。
「ちょ……」
ミナーヴァも膨れ上がる存在に気づいたのだろう。
流石に声が焦っている。
高笑いする男。
「どうする!? 試作型の量産型ゴーレムだ! もうデスゲームなんて知ったことか! みんなまとめて吹っ飛ばしてや――」
その顔面に拳が埋まった。
ミナーヴァが胸ぐらを掴むと投げ飛ばし、さらに髪をひっつかんで椅子に叩きつける。気分がノってきたのでさらにもう一回床に顔面を叩きつける。
ボロ雑巾同然になった男の髪を掴んで引き寄せると、
「洗いざらい吐け。でないと潰す」
潰したよ。お前がとユータスが突っ込む。
しょうがない、とミナーヴァは男に何かを括りつけ始める。
「何やってるんだ?」
「あのちっちゃいゴーレムは何かに引き寄せられてる。生きてる人の体温か、それとも二酸化炭素か。とにかく生きてる人を狙うように設定されてるっぽいから――」
いうが早いか、男を担ぎ上げて適当な方向にぶん投げた。
放物線を描きながら床を転がる男にゴーレムが群がっていく。
「二人とも今すぐ逃げて! あたしはここで――」
瞬間、ミナーヴァの後ろで赤き大輪の花が咲いた。
男が落下した場所が。
「食い止めるから」
イオリが相方にに耳打ちする。
「あの人、ダイナマイトくくりつけて爆殺しなかった?」
「身内以外には容赦ないんだよな」
「私……やっぱり死ぬの?」
ユータスが「お前は大丈夫なのか」と投げかける。
ミナーヴァの返事は、とても元気なサムズアップだった。
「だいじょうぶだよ。あと四つくらい残ってるから」
さっき殴り倒した人たち全員爆殺する気だ!
このままでは全員処刑される!
イオリは力を込めた。
ブレスレットが光の本流となり、手の中でハリセンの形を取る。
「私も手伝うから」
そのまま駆けてミナーヴァの背後に回ろうとした。
「ちょ、危ないよ」
子供を諭すような声でミナーヴァが振り向いた。
それがよくなかった。
ミナーヴァとイオリの身長はほぼ同じ。
女子にしてはやや高めである。
しかし今はミナーヴァが一段上に立っているため、イオリの頭はミナーヴァの胸の位置にある状態である。
ミナーヴァは振り返る時、死角になって考慮できかったものがある。
ふくよかなそのバストである。
肩や腕は当たらないように考慮出来ていても、惰性でぶるんと揺れるその乳までは計算に入れられていない。
片乳の重量たるや、推定900ジェム。
その凶器が振り向きの遠心力で加速して。
見事。
イオリの顔面に炸裂した。
「あ"」
ちなみミナーヴァは後にこう語る。
あれは自身にとっての気まずかったオブザイヤーぶっちぎりのトップだったと。




