2-38
イオリは恐れていた。
目の前の悪魔に。
素手で男達をボコボコにし、ついさっきもゴーレムを粉にしてしまった。
今は男の前でヤンキー座りをしていて上目遣いに威嚇している。怖い。
(私、あんなのと戦うの?)
殺される。
あのゴーレムみたいになる。
内臓全部取り外されて、中に花とか詰め込まれて、ティルナノーグ中央にある噴水とかに飾られちゃうんだ。
もう故郷には帰れない覚悟さえし始めていた。
「大丈夫だろ」
ユータスが呟く。
「頼んだらくれるんじゃないか?」
「代わりに命取られるんじゃないの!」
「大丈夫だって。あの宝石、しばらく下駄箱に飾ってたって言ってたし」
思い入れゼロ!
「なんか圧政しいてる魔王が許せないからって、説得しにいったら、気づいた時には森羅万象灰燼に帰してたらしくって」
あの人、竜巻か何かの化身なの?
「もう未開の地の蛮族じゃん!」
「……それミナーヴァの前で言うなよ?」
「何よ怒るっての?」
「いや、泣く」
繊細!
「そうだ! ミナーヴァの夢! あの人の欲しいものあげたら宝石くれるんじゃないかな?」
イオリの提案に、ユータスは考えてみる。
一応ミナーヴァは依頼人であり、彼女の嗜好を調べるためにそれとなく世間話を織り交ぜて集めていたのだ。そしてイオリは彼の記憶力が一流であることも――代わりに興味ないことは一切覚えていない――知っていた。
なのですぐに答えが返ってきた。
「確か力が欲しいって言ってたな」
「心は少年なの?」
「あとプロテインが欲しいって言ってた」
「まさかの育てる方」
「将来は立派なプロテインのお城に住んで、お庭にでっかいプロテインを飼うんだって言ってた気がする」
「ごめん。わかる言葉に翻訳してもらっていい?」
やむを得ず、ユータスは別の情報を検索してみる。
「じゃあ大砲の弾かな。硬くないとドリブルできないって嘆いてたから」
「大砲の弾でスラムダンクキメるの!?」
「こないだ投げてサン・クール寺院削っちゃってたからな」
「あれ人災だったの!?」
無理だ。やっぱり勝てる気がしない。
あんな妖怪プロテインにどうやって勝てというのだ。
クラーケン相手のほうがまだ勝ちの目が見えるくらいである。
だからイオリはすぐに気づくことができなかった。
「ん?」
ユータスがいち早く異変に気づく。
それはゴーレムの残骸だった。
「何か、出てきていないか?」




