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緑の炎に包まれる。
長空の衣装が焼けていくのを感じた。
散り散りになって消えていくような、不思議な感覚。
隣を見てみれば、ユータスの体も炎に包まれていて「あー」と気の抜けた声を出している。風呂か。
正直な話、熱さは無い。
ひりつくような肌の痛みもなければ、空気が焼けていく息苦しさもない。
強いて言えば強い風に当てられてしまったかのような、その程度のものだった。ちっとも痛くない。
あっという間に炎が萎んでいって、気づく。
布の感触に。
服装が変わっていたのだ。
それは白花で言うところの着物に似ていた。
紺の着物。
袴は純白。されど動きやすさを優先して丈はくるぶしまで詰められている。
上に丸い襟がついた上着を纏い、腰を布で絞っている。
覚えがある。
狩衣と呼ばれる衣装だ。白花の京地方を守護する“陰陽師”なるものが纏いし鎧。
顔につけられた狐の面。
ユータスも同じ衣装になっていて、こちらはカラーリングが紺ではなく緋色になっている。
色違いの同じ衣装だった。
「白花の狐を意識したの。白花じゃ神獣って聞いたから」
「サキュバスにとっては?」
問うてみると、サキュバスが途端に顔を顰める。
「害獣。アイツら、熟れた野菜すぐ食うから」
後にユータスから聞いた話だが、サキュバスは生粋の農耕民族なのだそうだ。
主にジャガイモ。牛などの畜産業も営む。
「ユータスさん! 全力で走って!」
「オレが!?」
「女の子リードするのは、王子様の役目っ!」
どうやらサキュバスは乙女座らしい。
「アンタ……」
ユータスが呟き、サキュバスが笑う。
しかし彼の答えは、彼女が期待していたものではなかったようだ。
「オレは女の子じゃないぞ」
そうきたか。ミナーヴァは肩をすくめる。
「三つ編みでもしてみたら? きっと似合いますよ」
「最低でも髪が15セルトマイス以上無いと難しいだろ」
マジレスかいと、ミナーヴァが苦笑した。
「イオリ……さん?」
まだ呼び名れていないからか、ちょっとぎこちない口調でサキュバスが話しかける。格好に反して気を使う性格のようだ。
「王子様をよろしくね」
本当に、格好にそぐわぬ穏やかな笑み。
彼女は気づいているのだ。
イオリが女の子であることを。
その時だった
「いい加減にしろっ!」




