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ユータス・アルテニカは天才と奇人の狭間を歩く男である。
典型的な職人気質。
手に精霊が宿っているとまで謳われし細工師。
半面、身なりに関しては呆れるくらいの無頓着で何日も同じ格好であっても気にしない。
しかも私服ではなく作業着だ。
身に着けているもので愛着があるものと言ったら鼻眼鏡くらいのものだろう。何せユータスの自作である。
しかし彼には致命的な欠点が存在した。
イオリたちは今なお狭いバスルームの中に閉じ込められていた。
そして壁の向こうから男の声が響き渡る。
『ええい! まだゲームが続きがある! 坊やたちにも協力してもらうぞ!』
それに対してユータスの返しは実に冷静だった。
「何で?」
『いや、何でって、そりゃあ、ほら……』
「それ、オレたちがやる理由あるのか?」
至極まっとうなことを言い放つ。
『……いや、私にはこのティル・ナ・ノーグに復讐するという大いなる義務が』
「イオリは関係ないだろ」
『え』
「オレは確かに生まれも育ちもティル・ナ・ノーグだけど、イオリの生まれは白花だ。海を隔てた遠い遠い異国の島国。そもそもティル・ナ・ノーグに復讐したいなら、オレみたいな職人じゃなくて、もっと上の人間を狙うべきなんじゃないのか? 天馬騎士団とか、領主とか。アンタも言いたいことがあるなら話し合えばいいだろ。さっきから話が一方的だし」
『…………』
ユータスは限りなく正論に近い暴論を投げつける。
本人的には歩み寄っているつもりなのかもしれないが、正直地雷原を土足で踏みつけるような行為であり、見てるイオリの方がハラハラするくらいだった。
『うるさいうるさい! 私が楽しければいいんだよ!』
「俺たちが従う理由ないじゃないか」
『いいからゲームに参加しろ! これは命令だ!』
「……何で?」
『だーかーらー!』
駄々を捏ね始める相手に業を煮やしたのか、ユータスがイオリの方へと振り向く。
その顔には困ったように眉根が寄せられている。
「……イオリ。何であの人怒ってるんだ?」
「ユータ……」
溢れんばかりの創作センスに愛された男。ユータス・アルテニカ。
悲しいかな。
彼は空気を破壊する才能にも恵まれていた。