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なすすべもなく、スタッフは口を閉じる。
その手にティルナノーグ名産の黄金林檎――しかも食べかけ――を握りしめて。
スタッフは考えていた。
イオリの振る舞いは悪くいえば図々しい。
控えめに言って押しが強いと言ったところである。
だが違う解釈をすれば、必死とも言える。
――誰のために?
「イオリ、言い過ぎじゃないか?」
「うっさい! 何であいつピンピンしとんよ。絶対変やわ」
「カルデア語じゃわからないって」
「相手もわからんやろ」
チラリとイオリがスタッフを横目で見やる。
値踏みするような目。もしくは警戒。
「あの人何なんよ。男か女かわからんし、格好もチャラついとるし」
イオリの言葉は故郷である白花のものだ。
より正確には地方のもの――カルデラ語と呼ばれている。
本来のものとはイントネーションが異なるため、ヘタをすると現地人ですら何言ってるのかわからないと降参するくらいにひどい訛りだといわれることがある。
だからこそイオリは“あえて”使っていたのだ。
分かるわけがないから。
スタッフは咳払いをして一言。
「悪口は相手のおらんところでいうた方がええよ? 何されるか分からんけえ」
控えめに言い放たれたその言葉は、イオリたちを凍らせるのに充分な破壊力を有していたようだ。
「カルデア語、わかるの……?」
「本で読んだ程度じゃがな? ええと、コニチワ?」
出稼ぎに来た外国人のような独特のイントネーション。
それでも理解できる程度には、話は通じている。
ちなみにさっきの「コニチワ」も白花の挨拶である。
こんにちは。
イオリは控えめな標準語でつぶやいた。
「盗み聞きすんな。変態」
スタッフは泣いた。




