2-22
イオリが二人に気づいた瞬間のこと。
それはハリセンを見舞う五分前のことだった。
振り返ると見えたのだ。
楽しそうに話すユータスとスタッフ。
一瞬、ほんの一瞬だけ、胸を刺す痛みを感じたけれど、さらに後ろの存在に気付いた瞬間に消し飛んでいた。
こちらを指差す男たちの姿
デスゲームに誘われる前に見た顔だった。
あの変な部屋に連れ込んできた男たちのうちの何人かは顔を覚えている。
つまりはあの一味だということ。
擬態のつもりなのか、スタッフの服を身につけていた。
無地の分厚いコート。
それは今ユータスと話しているスタッフと同じものだった。
だからイオリの取った行動は単純だった。
走って。
走って。
走って。
自分の武器を繰り出す。
まずはユータスの一番近くにいる敵を薙ぎ払う!
おおきく振りかぶって、一撃を見舞った。
「イオリ、お前何してんだよ!」
ユータスの意見は無視して、車椅子のハンドルを握りしめる。
「ユータ! 逃げるよ!」
「何で!」
「話は後! 早くここから逃げるっちゃ――」
言葉が。
途切れる。
「痛たたた……」
ありえない。
その言葉がイオリの頭で反芻される。
渾身だった。
全力だった。
ユータスをいつも星にしている時以上の力を込めて解き放った。
それなのに。
相手はそこに立っていた。
よろめいた体を立て直すべく大地を踏み締めて。
衝撃を殺して体のバランスを立て直し。
まだチリチリと熱を帯びた頬をさすりながら、頭を振って意識を切り替えている。
クラクラする。
ただそれだけ。
イオリの攻撃を蚊ほどにも感じていないのだ。
人間以外の何か。
そんな風にさえ見える。
相手はイオリをどう思っているのだろう。
知る由もなかったが、実際にスタッフはこう思っていた。
(気まずい......)