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どうしても憎いあなたへ  作者: 佐藤つかさ
第一章
31/104

2-21

 ぶつかったんですよと、スタッフは言った。

「ん?」とユータス。「ぶつかったって、道でか?」

「避けれたと思ってたんです。フェイントで誘いも入れたし、裏をかいたと思ってた。だけど結果は正面衝突。どういうことだと思います?」

 ユータスは考える。

 このスタッフは今こそ清掃に励んでいるが、実際は現役の剣闘士だ。

 剣闘士ともなれば、視線、重心移動、ほんのわずかな筋肉の動きで相手の行動を予測できる。

 なのにぶつかった。

 ならば見切ったと思っていたイオリの動きもまた、スタッフと同じフェイントだったということになる。

 現役剣闘士とまったく同じ行動を、同等の反応速度で、しかも反射的に行ったということである。


「人をよく見てますよ。彼女」

 スタッフはそう呟くと、ユータスに視線を向けて意地悪っぽい笑みを浮かべる。

「ユータスさんも見習ったらどーですか?」

「どういう意味だよ……」

「人にキョーミ持ちましょうよ。あの人と話とかしてます?」

 会話くらいしてるとユータスは抗議した。しかしスタッフは半信半疑のご様子だった。

「へー。じゃあ、あの人のお誕生日は?」

「え」

「あの人の好きなものは?」

「う"」

「あの人が休みにどんなことしてるか、聞いたことあります? 寝てる? 本を読む? 詩を書いてる? どんな歌がが好きとか知ってますか?」

「…………」

 すっかり縮こまるユータス。

 どうやら本当に知らないらしい。

 あきれ果てた様子でスタッフは重いため息をついた。

「ユータスさん。ペルシェ好きですよね?」

 ペルシェといえば、このアーガトラム大陸に住まう生物で、まるで虹を着飾ったような形をしている。

 ユータスはこの生物に魅了されているのだ。あれはまさしく生きる宝石だ。

「好きだけど?」

クアルンは好きですか?」

「食べるなら」

愛玩動物ガートは?」

「見るだけなら」


 息を吸って、スタッフは問いかけた。

「人間は?」


 ユータスは、それに応えることができなかった。

 なぜならイオリがハリセンを叩きこんできたからである。

 スタッフの顔面に。

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