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どうしても憎いあなたへ  作者: 佐藤つかさ
プロローグ
3/104

1-3

 突然の声に、イオリたちは驚いた。

 

『やあ。坊やたち』

 

 壁から響く声。

 驚くべきことに、その向こうには誰もいなかった。

 ランタンが揺れるたびに壁のタイルと溝の間で影が揺らめく。

 不意に、誰かに見られているような気がした。

 

『声が聞こえるかい? イオリ・ミヤモト』

 

 恐怖がイオリの首筋に突き付けられる。

 どうして相手はイオリの名前を知っているのだろう。

 

『突然だけど、ゲームをしよう。ルールは簡単。坊やたちは鍵を持っている。お互いの足枷を解く鍵だ。でもその鍵を解くにはお互いを殺さなければならない』

 

 殺す。

 聞き間違いかと思ったけれど、相手は確かにそう言った。

 酷く残酷で強い言葉。

 

 含みを残したような耳に残る声。

 隣で何かの金属音が響いた気がしたけれど、イオリは振り向く気になれなかった。

『怖いだろう? 助かりたいだろう? そこで坊やたちには私が勧めるゲームを……』 

「解けた」

 

 男の自信たっぷりな言葉が遮られる。

 遮ったのは隣にいたユータスだった。

 調子を確かめるために、両手を握ったり開いたりしている。

 そう、両手を。

 

 確かユータスの両手には手枷がはめられていたはずだ。イオリの足枷と同じものが。

 視線を落とすと、カビだらけのタイルに鎖が転がっているではないか。

 解いたのだ。ユータスが。

 

『ど、どうやって……』

 動揺を隠しきれない相手の声に対して、ユータスの声は淡々としたものだった。

「作った」 

 省きすぎて説明が不足している。

「ユータ、もう少し詳しく」

「手元に鍵がないから作ったんだ」

 さっきから金属を磨いていたのはこのためだったのか。

「その辺の棒を拾って、鍵穴に合うようにでっぱりをヤスリで削った。あとは挿して回すだけ」

 憎らしいくらい落ち着いた物言いだが、今となってはむしろ頼もしささえ感じてしまう。

 ユータスは“だけ”と評しているが、鍵の仕組みを観察し、ましてや把握して鍵穴にフィットする鍵をつくるには、立体的な造形センスが必要になる。

 彼はそら・・で組み上げて、さらには具現化して見せたのだ。こんなゴミだらけの場所で。

 

 ユータス・アルテニカ。

 ティル・ナ・ノーグで細工師を営む青年であり、齢十八にして自らの工房を構える若き才能の持ち主なのである。

 そしてイオリ・ミヤモトはその共同経営者。

 これから紡がれるのは、この二人の物語である。


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