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闘技場の一角にミュージアムと呼ばれる空間がある。
冒険者がかき集めてきた財宝を飾る、いわば宝物庫のようなものだ。
戦いの場に芸術品を飾るという、ある意味形容矛盾と言えなくもない。
オーナーであるアレッサ・ピアスが収集したものが主であり、彼女曰く「あっても邪魔だから」とのことらしい。
それから置き場所に困っていた剣闘士が自分もいいかと隅っこに積み始め、そうしているうちに同じ境遇のものがさらに積み、我も我もとこぞって収集品を預けて――もしくは捨てて――いった。
そうしてレンガの如く積み重なったそれは、物置同然だった展示エリアをワンフロアを占める大規模なミュージアムへと変貌させるのに十分な量だった。
イオリが見つめていたのは、その展示品の一つである。
題目は勇者の剣。
正確には、剣“だった”もの。
岩に刃を埋めて、塚だけが樹木のごとく突き出た異質さ。
まるで子供が飼っていたペットの墓に突き立てる枝のような心許なさ。
だけどこの剣を抜けば一国の主人になれるというおとぎ話が出回っているのだ。
教会の庭に埋まっていたそれを、我こそは勇者なりと名乗る猛者達が世界中から集まってはこの剣を抜かんと訪れたらしい。
年月を経て剣は錆びつき朽ち果てて、塚尻に至っては飾りが抜け落ちている。
役目を果たした剣は今や岩ごとくり抜かれて、遠い遠い城塞都市ティル・ナ・ノーグで祀られているのだ。
一体どれだけの勇者が引き抜こうとしたのだろう。
どんな想いをこめて、この剣は作られたのだろう。
想像するだけでいくつもの物語が溢れてきそうだ。
「この剣すごいね。勇者しか抜けないんだって」
期待に胸を膨らませるイオリ。
しかしユータスは「ああ、それ」と冷めきった声。
「抜こうとする旅行客が多すぎて教会が迷惑してたって。土足で踏み込まれるしマナー悪いし酒要求するしセクハラ酷いしで散々だったって。で、対策で剣と岩の隙間に鉛流し込んだんだよ」
観光で街の収入上がったから喜んでたらしいけどさ、などと他人事のようにユータスは呟く。事実他人事なのだけれど。
夢物語をぶち壊されて、震える声でイオリは抗議する。
「嘘かもしれんやろ」
「だって頼まれたのオレだし」
「…………」




