2-10
そして物語は現在。
イオリたちが謎のゲームから抜け出した頃に戻る。
長空の衣装に袖を通し。
慣れない化粧で顔を隠して。
紛い物の宝石を身にまとい。
作り物の世界を闊歩する。
闘技場。
アーガトラム大陸の冒険者が集う場所。
血湧き肉躍る闘争の都。
だけど今日は年に一度の宴に酔いしれていた。
エントランスホールに入る玄関には、本来は恐ろしげな牙を生やした巨大なドラゴンの口をかたどっていたのだけれど、子供が泣き出して親子連れが入れず別の娯楽に行ってしまうのが悩みの種だった。
だからイオリたちが入ったときには、そこは豪華ながらごくありふれた正面玄関になっていた。
正面の円形広場に敷き詰められているのは、長空や白花の建築素材を取り入れたヒノキの床。
壁や天井は剥き出しのコンクリート。
天が高い吹き抜け構造――パッサージュと呼ばれるらしい――で、天窓から差し込む月の光の恩恵を受け、ホール内は神秘的な輝きに包まれていた。
しかし周りにあるのは檻に入れられたトラ、ショー、大道芸人にレストラン。ありとあらゆる気晴らしができる俗っぽい空間だ。
そして今は橙と紫の二色で埋め尽くされている。
ティル・ナ・ノーグ名産の黄金リンゴをくり抜いたランタン。
天井にぶら下げられた札にはいくつものメッセージが散りばめられている。
人々が賑わう一夜の夢。
誰もが幻想の海で揺蕩っている。
車椅子で、少し低い世界からものを見るユータスは――彼の目には世界はどれだけ輝いているのだろう。
ごりごりごりごりごりごりごりごり……。
「……………………」
「ユータ。アクセ作っとらんと戻ってこんかい」
いかんせん。
彼は創作の国の住人であった。